展望2020年のIT企業

人を賢く、創造豊かにするAI活用への挑戦 - (page 2)

田中克己

2017-02-28 07:30

がん判定に深層学習を応用

 1月から取り組み始めたのが、医療へのディープラーニング(深層学習)の適用である。厚生労働省の研究助成金5000万円弱で、希少がんの種類を瞬時に判定する研究開発プロジェクトを東京大学医学部附属病院、インスペックらと開始したところ。

 「この猫なに猫」というアップロードされた猫の種類を回答するメタデータの専門画像認識技術を応用し、1枚当たり9億から36億画素のがん画像データから、がんの種類を判定するもの。3年計画になる。

 野村社長によると、東大などに5万以上の画像データがあり、それを読み込みながら、がん判定の精度を上げていくという。目標は、医師が手術中でもがんの種類を判定可能にすること。10数年前の地球シミュレータのスーパーコンピュータとほぼ同じ36テラFLOPSのサーバを使うが、価格は99万円、設置床面積は1万分の1、電気代もわずか年5万円程度である。

 こうしたAIの活用が進む一方、野村社長の頭を悩ます問題がある。たとえば、米Googleより10倍精度の良い検索エンジンを開発したら、150万円で全権利を買い取ると言ってくる人がいること。月額20万円のビッグデータ解析用クラウドサービスを2000円で使えると言い張る金融機関の関係者もいるという。逆に、AIソフトの存在や活用を知らない人がいる。

 日本に、パッケージソフト会社が育たない理由の1つに思える。AIの存在や活用を知らない人も少なくない。そこで、メタデータは顧客企業に活用のアイデア力を求めることがある。人材派遣会社なら、人材評価を研究する人がいるかだ。独自の属性データを考えることで、競合との差別化を図れるからでもある。

 加えて、文書の重み付けをどうするかがある。たとえば、「責任感のある人」といっても、いろんな意味が込められている。その解釈は企業にとって、異なるだろう。

 人材派遣会社がそうしたAI活用のノウハウを蓄積し、外販に乗り出すことに期待もしている。メタデータに多くの社員がいるわけではないので、「システム構築力のある企業と組み、彼らにエンジンと頭脳を提供し、レベニューをシェアをしたり、成約ごとにロイヤリティに入ってきたりするビジネスモデルにしたい」と野村社長は考えている。

田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任し、2010年1月からフリーのITジャーナリストに。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書に「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)がある。

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