こう考えたのは、以下のような状況があるためだ。
デジタル変革に関するTech Pro Researchの最近の調査では、こうしたイニシアティブを先導しているのはIT部門だとする回答が28%、CEOや最高マーケティング責任者(CMO)、最高財務責任者(CFO)、IT部門以外の上級幹部という回答が26%、バイスプレジデントや業務リーダー、ITディレクターという回答が22%、それ以外という回答が24%だった。
この調査では、企業におけるデジタルテクノロジの採用が、過去のその他のテクノロジの採用とは異なり、導入時に特定の人物が責任を持つのではなく、分散型の民主主義的なプロセスとなっていることが示唆されている。
これは、通常であれば新たなテクノロジの導入に向けた説得や、予算の獲得に奔走する必要があるCIOにとって、うれしい知らせだ。というのも、デジタル変革への扉が開かれ、数多くのさまざまなエンドユーザー分野で売り込みや採用といった活動が展開される結果、テクノロジへの投資が成果をもたらす適切なビジネスケースを見つけられる可能性も、理論上高まっていくためだ。
しかし、ここでちょっと立ち止まりたい。最初に支持が得られたからといって、継続的に支持やサポートが得られるとは限らない。特に、プロジェクトが計画通りに進まず、期待通りの価値が得られない場合にそれが言える。
テクノロジが計画性なく、ばらばらに採用されている環境での作業
デジタル変革の採用に向けて、エンドユーザーが個別に進める取り組みには、次のような落とし穴が存在する。(1)エンドユーザーはたいていの場合、自らのシステムと社内の他のシステムを統合する際に必要となるIT関連の知識を持ち合わせていない。(2)ユーザーは、長期的な視点で見れば適切ではないソリューションに縛り付けられてしまうような契約の交渉に、深い考えもなく取り組んでしまうかもしれない。(3)ユーザーは、デジタル変革に向けた自らの取り組みの成果を過大評価するかもしれない。
業界の調査でも、この見解は裏付けられている。
Forrester Consultingは2015年に、CMOが手がけるデジタルエクスペリエンスプロジェクトの60%以上が失敗に終わっているという調査結果を発表している。失敗原因のトップ3は、(1)今日の、そして将来的なプロジェクトを推進するには、社内のレガシー技術だけで十分だというCMOの確信、(2)顧客を第一に考えるカスタマー時代に対するCMOの理解不足、(3)技術(特にデジタル関連技術)面におけるCMOやその他の主要な利害関係者の未熟さとなっている。また、ビジネスプロセスとITサービスを手がける企業Genpactも同年に、世界的な企業100社で働くマネージャーを対象に実施した調査の結果を発表している。それによると、デジタル関連のプロジェクトのうち、自社の期待に添うROIを実現できていたのはわずか30%にすぎなかったという。