より小型で高密度かつパワフルな磁気ストレージシステムへの道が、あるブレークスルーによって切り開かれようとしている。
単一原子磁気ビットに情報を格納するための電子顕微鏡を操作するIBM Research - AlmadenのChristopher Lutz氏
提供:Stan Olszewski氏
IBMの研究者らは米国時間3月8日、単一の原子に対して1ビットの磁気情報を記録し、読み出す方法を確立したと発表した。
IBMによると、これまでは、極性を安定して保持できる磁気ビットの最小構成原子数は3〜12個であり、現在のハードディスクは1ビットの格納におよそ1万個の原子を使用しているという。
単一原子に対して1ビットのデータを設定し、その情報を取り出す実験に成功したことで、より小型で高密度のストレージデバイスを開発できる新たな可能性が生み出されたとIBMは述べている。同社によると、この技術が実用化されれば、クレジットカード大のデバイスに、3500万曲が収録されたライブラリ全体を格納できるようになるという。
カリフォルニア州サンノゼにあるIBM Research - Almadenでナノサイエンスの主任研究員を務めているChristopher Lutz氏は「磁気ビットはハードディスクや磁気テープ、次世代の磁気メモリを支える中核技術だ」と述べるとともに、「技術を極限まで、すなわち原子レベルにまで微細化した場合にどういったことが起こるのかを理解するためにこの研究を実施した」と述べている。
3月の初めにIBM Research - Almadenの研究者らは、走査型トンネル顕微鏡(STM)の先端に単一の鉄原子を配置した電子スピン共鳴(ESR)センサを開発したと発表した。このセンサを用いることで、研究者らはセンサ近傍にある個々の原子の磁場を測定できるようになった。なお、単一原子に対する磁場の設定も、STMに装着されたESRセンサを用いて行われた。
単一原子を読み書きするこのストレージシステムは、酸化マグネシウムの基台の上に磁気情報を記録するための原子を配置した構造となっている。この基台は、帯磁する原子と、基台の下部に配置される金属電極を隔てる遮蔽層として機能する。
この酸化マグネシウムの基台表面に配置される磁気情報記録用の原子はホルミウム(Ho)だ。研究者らによると、ホルミウムはその安定性により、データストレージメディアとして理想的な性質を備えているという。ホルミウムは、磁場の存在を含むさまざまな条件下でも優れた磁気緩和特性を維持できるのだ。