展望2020年のIT企業

サイボウズの青野社長の「複業のススメ」 - (page 2)

田中克己

2017-03-27 07:30

社会に漂う閉塞感を打ち破る

 青野社長は、多くの経営者らに複業制度の導入を薦めており、前向きに検討する企業も少しずつ現れている。例えば、ロート製薬が2016年2月に兼業を認める制度を始めたところ、約60人の社員が手を上げた。同社の狙いをオープンイノベーションとマネジメント力の向上、モチベーションの向上などにあるという。ある電機大手の社長も最近、サイボウズの取り組みを聞くため、東京・日本橋の本社を訪ねてきたという。

 政府も働き方改革を後押し、長時間残業の是正、テレワークの導入などを求めている。その一歩先に複業がある。給与をカバーするサブ収入のイメージの副業ではない。青野社長は「複業はパラレル、マルチのキャリアを積むこと」と説明する。閉塞感の漂う社会に風穴を開けることにもなるという。

 事実、働き方への風向きは大きく変わっている。それに気づかなかったのが電通かもしれない。社長退任に追い込まれた同社をみた経営者は、「次は私か」と心配を募らすことだろう。大企業は社内に有能な人材を数多く抱えている。抱えすぎているといっても過言ではない。その彼ら、彼女らの複業はビジネスの成長、人手不足の解消などにもなるだろう。もし起業すれば、新しい市場や新たな雇用の創出も期待できる。

 青野社長はそのためにも、就業規則の副業禁止の項目を削除することを提案する。給与体系も見直す。例えば、働く時間が週3日になら、単純計算すれば5分の3になるが、サイボウズは「このくらいだろうという市場性で決める。成果を見てからという考えもある。いずれにしろ、年高序列の賃金テーブルでは説明できないので、頭を悩ますことになる」(青野社長)。昇進などの問題もあり、社員1人ひとりの価値をどんな軸で評価するかにもなる。

 同時に、セーフティネットが必要になる。市場性を取り入れれば、持っているスキルが不要になることがある。介護などで働き時間が減ることもある。年齢やスキルなどで転職が難しい人も出てくる。結果、給与が下がり、貧富の差が拡大する。個々の企業だけで対処できる問題ではなくなり、社会保障制度の改革なども求められるだろう。

関心の薄いIT業界の反応

 ところで、働き方改革にIT業界の関心は薄いという。人月の受託開発は、長時間残業になり、副業する時間はないからだろう。そうした中で、経済産業省が「IT業界に働き方改革のお手本を示せ」と迫っている。

 一早く対応したコンピュータソフトウェア協会(CSAJ)が2月に残業時間の是正、テレワークの導入を宣言する。富士通なども多様な働き方の導入を発表しているが、副業の考えにはいたっていない。業務に支障をきたすとの理由からだろうが、求められているのはビジネスモデルの変革にある。それを成し遂げるIT企業が増えることを期待している。

田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任し、2010年1月からフリーのITジャーナリストに。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書に「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)がある。

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