FinTechの実際

“バブル”が生み出した、骨太国産FinTechの台頭 - (page 2)

小川久範

2017-03-29 07:15

粒揃いの国内受賞企業

 FIBC2017では、国内企業と海外企業を別々に評価し、それぞれ受賞企業を決定した。日本進出を視野に入れるステージにある海外企業と、プロダクトが完成したかしないかというステージの国内企業を同列で比較するのは難しいため、これは妥当な方法と思われる。受賞企業はメディアで取り上げられ、ビジネス面で好影響を受ける可能性が高い。今回のFIBCには魅力的なベンチャーが数多く登壇していたため、多くの企業が受賞できたのは本当に喜ばしいことであった。ただし、残念ながら賞を逃した企業でも、素晴らしい技術やサービスを持っているため、今回のイベントに参加されなかった方には、全登壇企業のチェックをお勧めしたい。

 最優秀賞(国内)を受賞したのはAuthlete(オースリート)である。恐らく世界的に見てもまれなサービスを提供しており、海外でも広く普及する可能性を秘めている。同社が提供するのは、認証用のプロトコルであるOAuth(オーオース) 2.0およびOpenID Connectの実装を可能にするクラウドサービスである。同社のすごさを物語るエピソードがある。2016年1月に、GoogleがOAuthの当時の最新仕様への対応を発表したのだが、Authleteはその1カ月前に対応を完了していた。同社の顧客は、意識していなかったと思うが、Googleよりも先に(少なくともGoogleが発表するよりも先に)最新のセキュアな仕組みを実装していたことになる。

 OAuth 2.0とは、誤解を恐れずに平易に言えば「許可証を得るための手順」である。家計簿アプリが銀行の提供するWeb APIを通じてユーザーの口座情報を取得するケースを想定してみる。家計簿アプリが口座情報にアクセスする際、ユーザーの情報を取得しても良いという許可証(アクセストークン)を、銀行システムに対して提示する。銀行システムは、これが正しいものであることを確認し、情報を家計簿アプリに渡す。この許可証は、銀行システムが事前に家計簿アプリに発行しておいたものである。許可証を発行する際、セキュリティに不備があると、不審者に許可証を渡してしまい、ユーザーの口座情報を盗まれたり、勝手に送金されたりする懸念がある。そのようなことが起きないよう、家計簿アプリが許可証を安全に取得する手順を標準化したものが、OAuth 2.0である。

 OpenID Connectは、「あるサービスのユーザー情報を、他のサービスでも利用できるようにする仕組み」である。ネットサービスを新たに利用する場合、そのサービスのユーザーとして新規登録する以外に、FacebookのIDを使ってログインするケースが増えている。これは、FacebookがOpenID Connectを実装しているから実現している。OpenID Connectは、OAuth 2.0を拡張した仕様で、OAuth 2.0プロトコル上にシンプルなアイデンティティレイヤを付与したものである。ところが、この「シンプルな」とされる仕様は、本当は実装が非常に難しい。数百ページにもおよぶ資料を読み込んで仕様を理解する必要があり、簡単に行えるものではない。資料は基本的に英語のため、国内のエンジニアには言葉の面でも苦労が大きいようである。

 OAuth 2.0もOpenID Connectも、実装にはシリコンバレーの大手テック企業ですら何カ月もかかり、しかも不具合が発生している状況である。ましてや、それらほどエンジニアを抱えていない企業(日本の金融機関など)は、そもそも独力で実装できるのかどうかさえ分からない。それが、Authleteを利用すれば、数分から数日で実装可能である。FinTechの発展には、金融機関によるAPIの開放は不可欠であるが、セキュリティに不安があっては実現が難しい。Authleteは、その不安を取り除き、APIエコノミーを加速させ、FinTechの発展に大きく貢献するサービスである。海外への普及も期待でき、最優秀賞の受賞も納得の結果と思われる。


Authlete(ウェブサイトから引用)

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