FinTechの実際

“バブル”が生み出した、骨太国産FinTechの台頭 - (page 4)

小川久範

2017-03-29 07:15

 Studio Ousiaが提供する「QA Engine」は、AIを活用した質問応答システムである。チャットによるユーザーサポートなどで使われており、ユーザーからの質問に一問一答で回答する。ユーザーがAIの答えに満足しない場合は、人間のオペレーターに引き渡す。同社は海外の自然言語処理のコンペティションで2回優勝した実績があり、その高い技術力に裏付けられたサービスである。労働力人口の減少が予想される日本では、コールセンターなどの労働集約型産業の変革は必須である。同社の技術は、AIによる業務の代替や従業員のサポートにより、そうした産業の生産性向上に寄与すると考えられる。


Studio Ousiaが提供する「QA Engine」(ウェブサイトから引用)

骨太FinTech台頭の背景

 今年のFIBC登壇企業には、受賞企業に限らず、高い技術力を持ち世の中の課題解決に貢献する骨太なベンチャーが、例年よりも多かったように思われる。こうしたベンチャーが台頭してきた背景として、FinTechブーム(あるいはFinTechバブル)の影響が考えられる。FinTechブーム以前は、金融機関はベンチャーとの協業やその技術の採用にあまり積極的ではなかった。一方、AI insideのOCRソフトが典型かもしれないが、金融機関で求められるような技術やサービスは、ベンチャーとの提携が当たり前のネット企業では必ずしも必要とされず、これまではあまり注目されていなかった。金融機関がベンチャー企業との協業を推し進めるFinTechブームが到来したからこそ、優れていても日の目を見ることがなかった技術の中から、金融との親和性が高いものが脚光を浴びるようになってきたと考えられる。

 またFOLIOのように、ネット業界出身のエンジニアと金融業界出身者の融合が進んでいるFinTechベンチャーの方が、より魅力的なサービスを産み出しているように思われる。異なる業界出身の人材が有機的に融合したベンチャーは、FinTechブーム以前にはあまり見られなかった。組み合わさることがなかったものを組み合わせることで、新たな経済価値を産み出すのがイノベーションだとすれば、ブームやバブルといった現象が、その触媒としての役割を果たしているのかもしれない。ともすれば否定的に捉えられることもあるブームやバブルといった言葉だが、FinTechブームがさらに加速し、その行き着く先に生み出されるイノベーションがどのようなものであるか、筆者は見てみたい気がする。2018年のFIBCでは、現在のFinTechの概念を超える、まったく新しいFinTechの登場に期待したい。

小川久範
日本アイ・ビー・エムを経て2006年に野村證券入社、野村リサーチ・アンド・アドバイザリーへ出向。ICTベンチャーの調査と支援に従事する。560本以上の企業レポートを執筆し、数十社のIPOに関与した。2016年みずほ証券入社。FinTechについては、米国でJOBS法が成立した2012年に着目し、国内スタートアップへのインタビューを中心に、4年間に亘り調査を行ってきた。2014年10月には、国内初のFinTechに関するレポートを執筆した。FinTechエコシステムの構築を目指す「一般社団法人金融革新同友会FINOVATORS」副代表理事。

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