がん検査の新たな選択肢--味の素の「アミノインデックス」誕生の経緯

末岡洋子 怒賀新也 (編集部) 2017年03月21日 07時00分

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 味の素といえば食品会社のイメージだが、同社は中核であるアミノ酸を利用して、がんのリスクを調べる「アミノインデックスがんリスクスクリーニング(AICS)」という事業を6年前から進めている。アミノ酸の分析を進めるうちに至ったビジネスで、今後は主事業の食品との相乗効果を高めるような用途への拡大も期待できるという。

 当初からプロジェクトに関わってきた同社アミノサイエンス事業本部 アミノサイエンス統括部 アミノインデックスグループに所属し理学博士の安東敏彦氏に話を聞いた。

味の素のアミノサイエンス事業本部 アミノサイエンス統括部 アミノインデックスグループに所属し理学博士の安東敏彦氏
味の素のアミノサイエンス事業本部 アミノサイエンス統括部 アミノインデックスグループに所属し理学博士の安東敏彦氏

 アミノインデックスがんリスクスクリーニング(AICS)は、その名から推測できるように、血液中のアミノ酸の濃度を調べることでがんのリスクを評価するサービスだ。

 AICS誕生の背景には、2000年代前半に進んでいた2方向での研究がある。1つ目は分析系だ。アミノ酸を中核とする味の素では、アミノ酸製品の品質保証の観点から重要となるアミノ酸分析を高速化できないかという研究が進んでいた。

 それまで利用されていた分析はカラムだけで分離分析するというもので、ロックフェラー研究所で1958年に考案された。1検体に要する時間は実に2時間。これを効率化するべく、味の素は分子量の違いで分離する質量分析計の導入や分子量の同じアミノ酸をカラム分離するなどの条件を用いる新しい手法を考案、なんと約7分に短縮することに成功した。

 2つ目は、アミノ酸摂取後に体内でアミノ酸がどのように変化しているのかを調べる生理学的研究だ。アミノ酸は体内で別のアミノ酸に変化するという特性を持つことから、全体のアミノ酸のバランスの変化を調べる必要がある。研究チームは、アミノ酸の多変量解析モデルを作成して安全性を評価できないかと調べていた。

 そのうちに、多変量解析モデルが病気の評価に使えるのではないかというアイデアが生まれ、がん、うつ病などのデータを取り始める。中でもがんは有望であり、がん患者のデータと健康な人のデータを比較するようになった。安東氏によると、2008年頃にはがんに特化したバイオマーカーという方向性を確立し、胃がん、肺がん、大腸がん、前立腺がん、乳がんにフォーカスして医療機関の協力を得てエビデンスを蓄積していったという。その後、膵臓がん、子宮・卵巣がんも追加されることになる。

がん患者は血中のアミノ酸の濃度バランスが健常者と異なる。味の素では多変量解析によるインデックス式をがん種ごとに作成、検査ではそれを利用してAICS値を出す。
がん患者は血中のアミノ酸の濃度バランスが健常者と異なる。味の素では多変量解析によるインデックス式をがん種ごとに作成、検査ではそれを利用してAICS値を出す。

 AICSでは約20種類のアミノ酸について、血液中の濃度のパターンの変化を調べて、がんのリスクを3段階(A/B/C)で評価する。全てのアミノ酸のデータを利用するのではなく、すい臓がんならセリン、アラニン酸、ヒスチジン、トリプトファン、イソロイシン、アスパラギン、胃がんならアラニン酸、バリン、トリプトファン、ロイシン、ヒスチジン、リジン、と利用するデータは異なる。3段階評価は、臨床アミノ酸研究会の医師が決定した。

 すい臓がんの場合、最もリスクが低いランクA(特異度80%未満)では0.3倍、3478人に1人ががんで、ランクB(特異度80%以上95%未満)は1.3倍(789人中1人)、リスクが最も高いランクC(特異度95%以上)では11.6倍(86人中1人)という。

ZDNet Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

この記事を読んだ方に

SpecialPR

連載

CIO
トランザクションの今昔物語
研究現場から見たAI
Fintechの正体
米ZDNet編集長Larryの独り言
大木豊成「仕事で使うアップルのトリセツ」
山本雅史「ハードから読み解くITトレンド放談」
田中克己「2020年のIT企業」
松岡功「一言もの申す」
松岡功「今週の明言」
内山悟志「IT部門はどこに向かうのか」
林 雅之「デジタル未来からの手紙」
谷川耕一「エンプラITならこれは知っとけ」
大河原克行「エンプラ徒然」
内製化とユーザー体験の関係
「プロジェクトマネジメント」の解き方
ITは「ひみつ道具」の夢を見る
セキュリティ
「企業セキュリティの歩き方」
「サイバーセキュリティ未来考」
「ネットワークセキュリティの要諦」
「セキュリティの論点」
スペシャル
課題解決のためのUI/UX
誰もが開発者になる時代 ~業務システム開発の現場を行く~
「Windows 10」法人導入の手引き
ソフトウェア開発パラダイムの進化
エンタープライズトレンド
10の事情
座談会@ZDNet
Dr.津田のクラウドトップガン対談
展望2017
Gartner Symposium
IBM World of Watson
de:code
Sapphire Now
VMworld
Microsoft WPC
Microsoft Connect()
HPE Discover
Oracle OpenWorld
Dell EMC World
AWS re:Invent
AWS Summit
PTC LiveWorx
より賢く活用するためのOSS最新動向
古賀政純「Dockerがもたらすビジネス変革」
中国ビジネス四方山話
ベトナムでビジネス
米株式動向
日本株展望
企業決算