橋渡し人材が重要視されているのは、21世紀において、情報通信技術(ICT)とサイバーセキュリティが私たちの生活や行政のあらゆる側面を支えていることが1つの理由です。その範囲には、事業運営やリスク管理、外交、金融、法律、医療サービス、国家安全保障、エネルギーおよび水供給から技術革新にまで及んでいます。
また、ICTはボーダーレスであるため、サイバーセキュリティにはさまざまな職種、組織、セクター、国にまたがる幅広いチームワークが必要とされます。
さらに、サイバー攻撃の影響は必ずしも一つの組織、セクター、国にとどまるとは限らないため、私たち全員が国や組織の境界を越えて、業界横断的に協力し合うことが大切です。しかし、職種、組織、国ごとに文化や優先順位が異なるため、コミュニケーションや意思決定プロセスが複雑になり、協力が難しくなってしまいます。
だからこそ、サイバーセキュリティを確保するには、技術やマルウェア、重要インフラの運用だけでなく、前述のサイバーセキュリティ戦略や専門調査会の2016年12月の文書でも指摘されているように、経営や法律、安全保障、国際関係などの知見を有した幅広い分野の人材を有したチーム作りが不可欠となります。
全ての知識を一人が有することは不可能である以上、それぞれの多様な分野の文化や優先順位の違いを理解し、企業革新、ビジネスブランドや評判を守り、信頼を高めるためのビジネス実現要因として、サイバーセキュリティを実行していく団結力が必須なのです。
始まった産業界でのセキュリティ人材確保のための議論
政府主導だけではなく、産業界においても、サイバーセキュリティ人材の確保の議論が進みつつあります。様々な業界を跨り、サイバーセキュリティ人材育成のエコシステムを作るために始まったのが、「産業横断サイバーセキュリティ人材育成検討会」です。
経団連(一般社団法人 日本経済団体連合会)の「サイバーセキュリティに関する懇談会」が2015年2月に日本政府に対する「サイバーセキュリティ対策の強化に向けた提言」を発表し、人材不足に対する懸念を訴えたことを受け、30社のメンバー企業のうちNTT、日立、NECの3社がこの議論をさらに進め、2020年の東京五輪前に人材不足を克服するべく動いています。
2015年6月には、重要インフラ企業を含む各業界の大手企業約30社により、「産業横断サイバーセキュリティ人材育成検討会」が発足しました。日本企業が業界を横断した協力体制を開始したのはこれが初めてです。2016年8月時点で、金融、IT/テレコム、製造、メディア、貿易、輸送/物流の分野から会員企業数は48社まで増加しており、経団連に所属していない会員も一部います。