3月16日、「ガートナー エンタプライズ・アプリケーション戦略&アプリケーション・アーキテクチャ サミット2017」のセッションの1つとして、ガートナーのリサーチ部門でリサーチディレクターを務める本好宏次氏が登壇。「ポストモダンERPへの道:日本企業の『現実解』を探る」と題して講演した。
ガートナー リサーチ部門 リサーチディレクター 本好宏次氏
「ポストモダンERP」は、コアERPを中心に据えつつ、周囲にクラウドERPなどを組み合わせたERPのこと。これまでは、バラバラの業務ソフトをベストオブブリード型で組み合わせる時代から、機能統合型のスイート製品へと向かう近代化の流れがあった。ポストモダンERPは、こうしたモダンERPの次世代に当たる。
統合型スイート製品からポストモダンERPに移行する背景には「ビジネスのデジタル化によって“つながりの経済”の時代になると、巨大なERPスイートではビジネス要件に応えられなくなる」(本好氏)という状況がある。
以前のERPの定義は「複数の業務機能を統合していく」というものだったが、「もはやこの定義は古い」と本好氏は話す。現在では「ビジネスの柔軟性と俊敏性を両立させる」「管理系(会計、人事)と実行系(販売、生産)を分けて考える」「ビジネス機能を連携させるためのテクノロジ戦略」としてERPが位置付けられるという。
ポストモダンERPでは、業務機能同士を疎結合でゆるやかに連携する。実装手段としてはクラウドサービスが優勢となる。すでにタレントマネジメント分野はクラウドがほぼ100%を占めている。間接材の調達もクラウドが優勢だ。業種ごとに違いがある業務領域はクラウド化が遅れているが「10年後にはオンプレミスと同等以上にクラウドが使われるようになるかも知れない」(本好氏)とする。
ポストモダンERPの実現方法にはバリエーションがある
続いて本好氏は、ポストモダンERPの実現方法のバリエーションとして、HOOFモデルを紹介した。H(ハイブリッド)、O(オンプレミス)、O(アウトソーシング)、F(フリップ)の頭文字を拾った言葉だ。ハイブリッドとオンプレミスは従来の発想、アウトソーシングとフリップは型破りな発想に位置する。
従来の発想の1つ、ハイブリッドモデルは、オンプレミスとクラウドのERPをハイブリッド環境で利用するもので、採用が増加傾向にある。もう1つの従来の発想であるオンプレミスモデルは、オンプレミスの一枚岩に近く、ERPスイートの周辺で限定的にクラウドサービスを利用する。これは減少傾向にある。
型破りな発想の1つ、アウトソーシングモデルは、BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)を利用するもので、サービス事業者がサービスとしてERP機能をユーザーに提供する。5〜10年後に普及する。もう1つの型破りな発想であるフリップモデルは、クラウドファーストのモデルだ。記録システムにおいてもクラウドERPがオンプレミスのERPスイートを代替する。5〜15年後に普及するという。
ここで、日本とグローバルの現状を比較すると、日本はオンプレミスモデルが圧倒的多数の9割を占めている一方で、グローバルは8割がハイブリッドであり、オンプレミスは少数派となっているとする。
コアERPとクラウドERPの使い分けについては、ペースレイヤ戦略とバイモーダルのアプローチが今後ますます重要になるという。
ペースレイヤ戦略は、変更頻度に応じて業務システムを記録システム/差別化システム/革新システムの3段階に分けて取り組むアプローチのこと。バイモーダルは、業務システムの特性に応じて、重厚長大なモード1のアプローチとアジャイルで実験的なモード2のアプローチを使い分ける姿勢のことだ。
「記録システムは、ERPの標準機能をそのまま使ったほうがいい。一方で差別化システムや革新システムはモード2の要素が強くなる。明確な意図をもって異なるサービスやアプローチを組み合わせていくことが、これまで以上に重要になる」(本好氏)