米IBMと米SalesforceがAI分野で手を組んだ――それぞれが進める「IBM Watson」と「Salesforce Einstein」を統合するというものだ。3月22日、米ラスベガスで開催中のIBMのクラウドのイベント「IBM InterConnect 2017」で2社のCEO(最高経営責任者)が登場し、提携、そしてわれわれの雇用にも影響が出ると言われるAIの進むべき方向などについて話した。
Salesforceの共同創業者兼CEO、Marc Benioff氏
「AIで、私が個人的に驚いているのは進化と変化のスピードだ」とSalesforceの共同創業者兼CEO、Marc Benioff氏は言う。AIは新しいものではないが、ここ数年の間、主要ベンダーはどこもAI戦略を打ち立てており、音声アシスタントなどさまざまな形で生活の中に浸透しはじめている。
IBMは先に、音声のテキスト変換で、単語の誤り率5.5%という最低記録を樹立したことを発表したが、5%程度と言われる人間のそれとほとんど変わらないことになる。「5年前、いや3年前には現在の状況を想像できなかった」とBenioff氏は続ける。
ホワイトハウスを訪問
Benioff氏はIBMのGinni Rometty氏などと前の週、ドイツのMerkel首相の米国訪問に合わせてホワイトハウスを訪問しており、AIが土台となる今後の変化に米国内の労働者が対応できるように懇願したという。Rommetty氏はこのとき、今後4年間で2万5000人を米国で雇用すると述べたほか、(ホワイトカラー、ブルーカラーではなく)“ニュー”カラーを育成する必要があるとアピールした。米国社員に対し、4年間で10億ドルをトレーニングに投資するとも発表した。
IBMのGinni Rometty氏
Rometty氏は言う。「AI技術は大きなインパクトを与える。われわれの生活や日常の活動、そして雇用も影響を受けるだろう」。一方で、(雇用損失などの)問題を作るよりも、問題を解決する方がAIの役割としてはるかに大きいとも述べる。スキルについては、「来るべき時代に向けて、これまでとは違うことができなければならない」とした。
折しも先の米国大統領選で、雇用問題は大きなテーマとなった。Salesforceは慈善活動でも知られるが、教育分野は重要な活動対象となっており、2015年の自社イベント「Dreamforce」では来場者に子供たちへの本の寄贈を呼び掛けている。2016年も地元サンフランシスコとオークランドの公立学校に合計で850億ドルを寄付することを発表している。
Benioff氏は雇用以外の問題も提起、世界レベルで起きている地政学情勢を暗に示しながら「世界は信頼危機に陥っている」とした。Rometty氏は、IBMが作成したコグニティブ時代の透明性と信頼性に関する白書「Transparency and Trust in the Cognitive Era」を参照し、1)(技術使用の)目的が人間のためでなければならない、2)技術を使うときは誰がトレーニングしたのかを含めて、それを顧客に伝える、など基本指針として提言していることに触れた。
「技術そのものに良い・悪いはない。それを利用して何をするかで、良い・悪いが分かれる」とBenioff氏。だからこそ、企業が価値観を持ってビジネス活動をしているかどうかが問われるという。
強調するのは、進化の方向性だ。(コグニティブ時代は)「人間とマシンが一緒に起こすもの。人々は(活用することで)より良いバージョンの自分自身になることができる」とRometty氏。Benioff氏も同意し、「AIだけではない。第4次産業革命が起きている。皆が望む将来に向けて価値をきちんと持っている企業、政府、個人、全員がガードレールを保たなければならない」と述べた。
2社の提携についても短く語った。発表では、共同顧客に対しWatsonとEinsteinを統合し、新しいレベルの顧客エンゲージメントを可能にする。
・IBM Watson APIをSalesforceに統合することで、企業内外の非構造化データからの予測的洞察をもたらす
・Salesforce Einsteinによって提供される顧客データからの予測的洞察と組み合わせて、セールス、サービス、マーケティング、コマースなどでより優れた素早い意思決定を実現する
・IBMのThe Weather Companyが「Salesforce AppExchange」向けに新しいLightningコンポーネントを提供する
などのことが発表されていた。