ZDNet:ABMは簡単に取りかかるものではないし、それをするにはデータマネジメントが重要だと。
中東氏:データクォリティを一定のレベルに仕上げることは、ITにもマーケティングにもノウハウが多くは持っていないのが現状です。一方、そのデータに突っ込んでいかないと、次の行動が決められないのです。
尾花氏:私のクライアントで、ABMと呼べる取り組みは結構あります。「日本でいったらこの600社以外に売れないことが明確」といった場合があります。たとえば新規の売り物で、トータルの「アドレスできるマーケット」のタグがもう本当に数えられるという話であれば、基本はABMです。一方、そういう顧客ばかりでもないのでABMは誰にでも必要という概念ではないと思います。
ZDNet:(大手企業に顧客の多い)アクセンチュアにはだいぶ当てはまる話のような気がします。

アクセンチュア株式会社 デジタルコンサルティング本部 マネジング・ディレクター 槇隆広 氏
槇氏:そうですね。私は製造業の顧客を数社支援していますが、大手の製造業の顧客では、営業部門が主要顧客のアカウントプランを作って活動します。主要取引先数社で7~8割の売り上げを占めることもあり、主要取引先に対して何の商材を誰にどのようにアプローチしたら売れるのか、きちんと戦略を立てています。でも、こうした営業活動をすべての顧客に実施するのは不可能ですので、ほとんどの場合、上位数十社に絞ってアカウントプランを作ります。
そうすると、主要取引先以外をどうカバーしようかという話は絶対に出てきます。販売パートナーなどのチャネルを使う顧客層、そして取引額が少額のロングテールの顧客層があります。ロングテールは販売パートナーから見ても小粒すぎてあまり魅力的ではないので、この層は営業からするとマーケティング部門が担当して欲しいと思うこともあります。
主要取引先とロングテールの間の層は、販売パートナーによるテリトリー制などいろいろな商慣習がありますので、マーケティング部門でナーチャリングをした後に、販売パートナーを主管する営業部門に引き渡して判断してもらう必要があります。多数の企業がマーケティングオートメーションにつまずいている理由として、ロングテールにフォーカスしすぎているということがあるのではないかと思います。おのずと一案件あたりの販売額は少なくなりますし、リード数が多いので労力がかかります。
一方、主要取引先にフォーカスするABMに取り組むことで、注目される成果を出すことが期待できるので、リードマネジメントに取り組む機運が上ることになり得るのではないかと思っています。しかし、日本国内の営業活動においては、マーケティングのサポートをあてにしていないという傾向もあります。また、製造業のマーケットは主に海外を中心に拡大が続いており、日本国内のマーケットは飽和状態、または少しずつ縮小しているので、国内マーケットに対してABMに取り組もうというモチベーションは持ちにくいかもしれません。