座談会@ZDNet

オンプレとクラウドの狭間でユーザーは何を思うのか--クラウドベンダー座談会(1)

吉澤亨史 怒賀新也 (編集部) 2017年04月11日 07時30分

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 2016年は企業のクラウド利用が一気に広まった一年であり、基幹系を含むオンプレミスのシステムをクラウドに移行する動きも強まっている。クラウドベンダー側でも連携するケースが増えており、従来に比べて環境も整い、基幹系を含むシステムのクラウド移行の土台ができてきた。

 こうした状況の変化により、クラウドは新たなフェーズを迎えようとしているのか。ユーザーの意向は変化しているのか。今回、日本マイクロソフトの吉田氏、NTT Comの林氏、日本IBMの安田氏、日本オラクルの竹爪氏を招き、座談会を開催した。モデレーターはZDNet Japan編集長の怒賀新也が務めた。

登壇者(順不同)

  • 日本マイクロソフト株式会社 クラウド&ソリューションビジネス統括本部 Azure&クラウドインフラストラクチャ技術本部 クラウドプラットフォーム技術部 テクノロジーソリューションプロフェッショナル 吉田雄哉氏
  • NTTコミュニケーションズ株式会社 クラウドサービス部 クラウド・エバンジェリスト 林雅之氏
  • 日本アイ・ビー・エム株式会社 クラウド事業統括 クラウド・ソリューション 第二テクニカル・サービス シニア・アーキテクト 部長 安田智有氏
  • 日本オラクル株式会社 執行役員 クラウド・テクノロジー事業統括 Cloud Platform事業推進室長 竹爪慎治氏

ZDNet はじめに自己紹介と各社のクラウドにおける取り組み、ユーザーの規模感や業種などで特徴的なことがあればお願いします。

SAPとの協業発表後、目に見えて案件が増えた

日本マイクロソフトの吉田雄哉氏
日本マイクロソフトの吉田雄哉氏

 吉田氏 日本マイクロソフト株式会社の吉田雄哉です。テクノロジーソリューションプロフェッショナルということで、普段は顧客先で「Azure」の技術的な利点などを説明しています。

 Azureには専用線である「Express Route」をセットで提案していることもあり、対象は大企業が多くなっています。マイクロソフトとしても、オンプレミス向けのソフトウェアを提供していることから、はじめから「ハイブリッドクラウド」という方向で提案しています。

 2016年にマイクロソフトとSAPの協業強化の発表がありました。発表以降は問い合わせや案件が目に見えて増えています。社内でも、SAPに対応するために専門のメンバーをそろえるなど体制を整えていますし、サービスの内容も変わっています。

 例えばIaaSのSLAは、これまで仮想(VM)マシン2台以上を並べてSLAを担保していましたが、現在のSSDを採用するプランでは、シングルでもSLAを出しています。SAPとの協業強化後はグローバルでも非常に注目されていて、私たちとしても力を入れています。基本的にはいわゆるエンタープライズの顧客が多いのですが、業種、規模ともまちまちという印象もあります。全体が大きく動いている感じはあります。

クラウド、ネットワーク、セキュリティを1社集中で任せたいという顧客ニーズ

 林氏 NTTコミュニケーションズ株式会社(NTT Com)の林雅之です。メインの業務はクラウドサービスの広報宣伝で、記者会見の資料を作成したり、取材対応やアナリスト対応などをしています。また、エバンジェリスト活動としては、年間50~60本の講演活動のほか、最近では企業の意思決定者層へ営業と同行して訪問することが増えています。背景には、クラウド利用がこれまでの部署単位ではなく、全社で戦略的にクラウドを導入する企業が増えてきていることがあります。

NTTコミュニケーションズの林雅之氏
NTTコミュニケーションズの林雅之氏

 プロダクトアウトとしてのアプローチではなく、顧客の目線に立って導入方法を考え、最終的にNTT Comを選んでもらうというアプローチです。そのためにNTT Comは、2016年3月から7人のクラウドスペシャリストを選定しました。それぞれ特定の業種や、あるいはOpanStack、セキュリティ、マネジメントなどに強みを持つメンバーです。2016年10月の2016年10月のミランティス・ジャパンとの協業は私が仕掛けたのですが、こうした水面下での人脈を生かした取り組みも実施しています。

 顧客の傾向では、これまで各事業部が個別にクラウドを利用していたのを、情報システム部門が全体を把握して、中長期的にはクラウドを含めた情報システムをアウトソーシングしていく形で全社最適化をしていこうという動きがあります。

 特に現在では、オンプレミスのシステムをどうクラウドに移行していくかが注目されていて、その中でSAPのニーズが非常に高まっています。この2月には、Virtustreamとの協業も発表しましたので、今後はSAPの案件にも踏み込んでいきます。また、クラウドネイティブ基盤でIoTのビジネス展開をしていきたいという顧客や、クラウドだけでなくネットワークやセキュリティも含めて1社にアウトソーシングしたいという顧客が増えている印象です。

スペック重視から課題解決型への転換

 安田氏 日本アイ・ビー・エム株式会社(IBM)の安田智有です。普段はSE、エンジニアとして、顧客の技術的な課題に対して単身あるいは営業と一緒に訪問して取り組むことが多いです。またエバンジェリスト、名刺にはクラウドマイスターと書かれていますが、その役割は、社内外に対してクラウドの面白さを啓発したり、実際にシステムをクラウドに移行する際に発生しがちなトラブルを、未然に防ぐための問い合わせ対応をしたりしています。

日本IBMの安田智有氏
日本IBMの安田智有氏

 トラブルというのは、オンプレミスの環境をそのままクラウドへ持って行けると考えている時に発生します。具体的には、バックアップであるとか、耐障害性であるとか、HA(High Availability)構成のようなものなど、業務継続性や柔軟性に関する部分です。これらはクラウド上ではアプリ側に実装しないとなりません。そうした問い合わせにも対応しています。

 IBMは、おそらくメジャークラウドで一番最初にVMwareと協業しています。ただし、それ以前からVMwareは使えていたので、特に発表していなかったという経緯もあります。そのため、顧客の環境にVMwareがあれば、そのままIBMのクラウドに持って行けます。SAPに対しても、クラウドの移行に際してインフラやPaaSのフルマネージドサービスを提供しています。特に本番システムで動いている案件は、IBMが日本で一番多いとSAPの担当者に言われたこともあります。

 IBMは、トップのGinni Rometty氏が発表したように「クラウドとコグニティブの会社」に変わりつつあります。ハードウェア製品も引き続き提供しますが、顧客が聞きたいのはハードウェアのスペックではなく、顧客自身が抱えている課題を解決するにはどのような選択肢があって、その中でも最適なソリューションは何かということです。

 IBM社内には「スペック好き」が多いので、それをお客様の課題解決をベースとしたご提案にシフトしているところです。具体的な課題としては、インフラ、コスト、耐障害性の強化が多く、最近ではAI、Watsonの活用などがあります。

クラウドへの移行では「良くも悪くも真ん中にいる」オラクル

 竹爪氏 日本オラクル株式会社の竹爪慎治です。今回集まった皆さんはエバンジェリストやエンジニアなどフロント寄りだと思いますが、私はPaaSやIaaSといったクラウドプラットフォーム事業を統括している立場です。チームにはエバンジェリストやアーキテクトのメンバーがいますので、営業へのエビデンスを高めたり、クラウドの戦略を作ったり、数字の管理などもしていますので、割とげっそりしていることがあります。

日本オラクル株式会社の竹爪慎治氏
日本オラクル株式会社の竹爪慎治氏

 オンプレミスからクラウドへの移行ということについては、オラクルは良くも悪くもその流れの真ん中にいます。そこで感じている顧客の傾向は、クラウドネイティブのアプリを依頼されるのは10%ほどで、8~9割は現在のシステムをクラウドに移行するとどう変わるのかといった問い合わせで、お客様のフェーズが変わってきているということです。

 クラウドが一般的になり始めたころは、バックアップや検証環境をまずクラウドにしたいという小さい内容のものでした。しかし、(NTT Comの)林さんが指摘したように、これからのITのロードマップを切ったときに、基幹のどの部分をクラウドにするのか、どの部分はオンプレで頑張っていくべきなのかという話だったり、全体を見据えた話だったりします。そうすると、まずテクノロジの面でインフラに対する要件が厳しくなってきます。

 やはりその開発環境だったり、部門のシステムを少し変えるというと、クラウドなんだからと少し妥協したり、アプリケーションでなんとかしようというのも説得しやすい面があったと思います。でも、基幹システムを含めてという話になってくると、やや誤解している顧客も多いと感じます。オンプレミスと同じ水準のシステムがクラウドで提供される、といった感覚です。ただし、そうした相談も受ける以上、ある程度の答えを持っていなければなりません。

 VMwareの話が挙がりましたが、それはベアメタルの上にあるということですね。ベアメタル環境は、その上のシステムを動かしやすいですし、要件、性能、信頼性という面でも、今までのクラウドより高い品質が求められています。オラクルも昨年のオープンワールドで「Gen-2」(ジェネレーション2)という、ベアメタルを取り巻く信頼性を担保したインフラストラクチャを発表するなど、急ピッチで整備を進めています。

 実際に購入していただく、使っていただくまでのところでは、やはり顧客はロードマップを考えた上での効果を求めます。単純に現在のコストがこれだけ下げられるという話でなく、顧客のITのロードマップや投資計画の中でクラウドの効果がどのくらいあるのかといった内容が求められます。そこでオラクルでも、エンタープライズアーキテクトと呼ばれるメンバーや、私たちがインサイトと呼ぶ顧客のビジネスの中でのTCO(Total Cost of Ownership)をきちんと把握し、メリットを提示していく面をより強くするフェーズに入ってきています。

 SAPの話も出てきました。われわれの持つ製品として「Oracle E-Business Suite」や「JD Edwards」が相当します。私たちの今までのアプローチは、基本はそれをSaaSに持っていく、あるいはデータベースをPaaSに持っていて、よりコストダウンしようという提案でした。しかし、それを一足飛びにいくとマイグレーションコストが大きくなってしまうので、まずはIaaSに持っていって、そこから徐々に拡張していくというエンタープライズ顧客が多くなっています。そのため、オラクルもIaaSへの対応を強化しています。

ZDNet オンプレミス環境がクラウド化していく上で、データベースを押さえていることは大きなアドバンテージになると感じる一方で、クラウド移行のニーズはまだ低いようにも思います。オラクルのクラウドへの考え方として、Oracle Databaseを活用するユーザーに対して、そのビジネスを支えるアプリケーションレイヤもオラクルで構築しましょうといった提案がしやすいと考えられますか。あるいは、既存のユーザーから「クラウドにいきたい」という要望があったときにだけクラウドを提案するといったニュアンスもあるでしょうか。

竹爪氏 クラウドに移行するには、いくつか起点があると思うのですが、一番多いのは、たとえオンプレミスであってもIaaS、ハードウェアの層に対してコストを下げたいというケースです。オンプレミスのデータベースで、ハードウェア上で塩漬けしているだけで終わるということはまずなくて、むしろ最近はIaaSにまず持っていくというケースが非常に多いです。

 もう1つは、データベースの運用を長年にわたりシステムインテグレーターなどに依頼しているケースで、やはり新技術や新機能をキャッチアップしきれず、古いバージョンで使っている顧客もいらっしゃいます。そこで、オンプレミスのシステムをアップデートしていくよりも、クラウドに持っていけばオラクルが常に最新の環境を維持できます。ただ、やはりどうしてもクラウドに持って行けないシステムもあります。

 今の流れとしては、まずそういうことを一度白紙にして、どのシステムをクラウドに移行し、どのシステムをオンプレミスに残すのか。それをゼロから再検討しようというユーザーが多いです。全体計画を一度見直すとなると、クラウドベンダーもシステムベンダーにも、コンサルティングやシステムインテグレーションの方も含めて、顧客と会話する必要が出てきているのです。( 第2回に続く)

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