日本IBMは4月6日、2017年のクラウド戦略について記者説明会を開催した。日本IBMの取締役専務執行役員で、IBMクラウド事業本部長を務める三澤智光氏は、先日米ラスベガスで開催したイベント「IBM InterConnect」で、IBMの最高経営責任者(CEO)、Ginni Rometty氏が打ち出した全体メッセージが「IBMのあらゆるサービスのコアにコグニティブを組み込む」だったことを紹介し、それを背景にしたクラウド戦略を説明した。
日本IBMの取締役専務執行役員で、IBMクラウド事業本部長を務める三澤智光氏
三澤氏が強調したクラウド戦略のキーワードは「Lift&Shift」。新たな収益を得るなどの目的で「新たに構築するシステム」、以前からあるものの処理能力やセキュリティ面を考えて「変えた方がいいシステム」、問題がなく「変えなくていいシステム」の3つに分けられるとする。「安定的に稼働しているシステムをわざわざ変えなくてもいいという判断をするケースは十分にある」と三澤氏は指摘した。
その上で、新しく構築するシステム、変えていくシステムを考えるときに前提となる技術としてマイクロサービスアーキテクチャを挙げた。マイクロサービスは、さまざまな機能をAPI経由で組み合わせ、すばやく新たなアプリケーションを構築するための仕組みだ。Uberなどが、新たな枠組みでタクシー業に必要な機能をすばやく組み合わせ、短期間で「破壊的なサービス」をつくった例などが引き合いに出されることが多い。
Lift&Shiftのイメージ
日本IBMは、そのマイクロサービスを活用する企業アプリケーション構築において、クラウドネイティブ環境での高可用性の確保、ビジネス単位での実装、継続的な改善を実現する開発ライフサイクル全体の管理を主な要件として説明する。
説明会では、マイクロサービスの開発プラットフォームとして、Bluemixを中心にIBMが考案したアプリケーション開発手法「IBM Bluemix Garage Method」を発表。クラウドネイティブのアプリケーション開発で求められる開発、テスト、導入、運用というプロセスを、DevOpsの手法を用いて実践できるようにする。
さらに、Bluemix Garage Methodでの開発にあたって利用するツールとして、IBMが提供するものと、顧客が使い慣れたものを組み合わせて利用できる「Open Toolchain」も併せて発表した。自由度の高い開発体制の整備や開発チームごとのプロジェクト管理、複数チームによる大規模なクラウドネイティブアプリケーション開発、各種ツールの連携による開発ワークフローの自動化や可視化、ガバナンスの向上を図れるという。
IBM Bluemix Garage Methodのイメージ
このほか、アプリケーションをさまざまなインフラで利用する際に、一括管理できるようにするサービスとして「IBM Cloud Automation Manager」(CAM)を、Bluemixの無料サービスとオンプレミス向け製品の両面で提供することも明らかにした。CAMは、クラウド基盤でアプリケーション環境を展開するための「IBM PureApplication」と運用管理ツール「Tivoli」をクラウド向けに書き換えたものだ。
このほか、ブロックチェーンの商用利用を進めるため、「Hyperledger Fabric v1.0」など各種機能やツールをBluemix上で提供し始めたことも紹介。オープンソースソフトウェアを最大限に活用するために提供するハイエンド機である「LinuxONE」上で稼働するシステムを、月額160万円で提供する。
日本IBMは2月、クラウドとコグニティブシステムを組み合わせたソフトウェアやサービスを提供する専任組織を立ち上げており、クラウドネイティブなアプリケーション提供に注力するとしている。
三澤氏は、American AirlinesやRoyal Bank of Canadaなど、IaaSを超えてPaaS領域まで踏み込んでシステムを構築した例に触れる一方で、「マイクロサービスなどの先進的な技術を全面導入するようなケースは、日本ではまだない」と話している。
発表会で使われた資料など