事業会社で取り組むデータ分析の実際

営業がSQLを理解--データ活用を組織文化として定着させたリブセンス - (page 3)

伊藤徹郎

2017-04-13 07:00

--組織にデータ活用を浸透させるために行っていることはありますか。

 現時点では浸透させることを目的とした活動はありません。リブセンスでは既にデータ活用が浸透しているため、これまでその必要を感じたことがほとんどないです。高度な分析が必要なときはアナリティクスグループが関与して、それ以外の分析はサービス側で担当という分担で運用しています。

 例えばKPIを計測するためのダッシュボードもわれわれのグループで用意するのではなく、サービス側で運用しています。データリテラシーの高い社員が多いので、その方が効率が良いのです。とはいえデータ活用のスキルは人によってばらつきがあるので、今後はA/Bテストの設計方法や分析の方法論などのノウハウを共有する場はつくりたいと考えています。

--データ分析をさらに推進していくために努力していることはありますか。

 これまではレコメンドシステムやバンディットシステムの開発など、最終的に機能をAPIとして提供する形式のプロジェクトが多かったのですが、最近はそこからもう一歩踏み込んでデータを活用したサービスデザインに挑戦しています。

 現在進行中の転職アプリ内におけるレコメンドのプロジェクトを例にとりましょう。われわれの守備範囲を「機能の提供」と置くならば、高精度なレコメンドエンジンを開発することがゴールです。

 しかしサービス視点で見ると、レコメンドはあくまでも提供したい体験を実現するための手段です。そこでこのプロジェクトでは、プロジェクト統括担当者と一緒にユーザーにどんな体験をさせたいのかを考えるところからスタートして、それを実現するためにアプリ内のユーザー導線の設計やデータ取得するためのUI(ユーザーインターフェース)設計にまで踏み込んでいます。

--苦労した点なども教えてください。

 横断部署という組織の性質上、サービスの課題発見には苦労しています。現在は定例ミーティングに参加したり、プロジェクト統括担当者との雑談したりする中で課題を拾うことが多いです。

 われわれはベンチャー企業なので意思決定がとてもスピーディです。アナリティクスグループで手がける案件は中長期の期間を要するものも多く、例えば6カ月かかるプロジェクトでも始動して1~2カ月後に別の意思決定がなされ、優先順位が変わってしまうこともありました。現在は、長期的な展望から本質的な価値を提供することで、優先順位が変わらないように働きかけています。

--上長や経営層のデータ活用に対する理解はありますか。

 ほぼ問題はないです。全社の方針としてデータ活用に力を入れていますし、きちんと把握されていると感じます。また必要なポイントにはきちんと投資があると実感もあります。

--なるほど。かなり組織としてデータ活用が浸透していますね。では、データ分析者に期待される役割を教えてください。

 われわれのようにウェブサービスを展開する企業であれば、データを起点にユーザー体験の向上などのサービスに付加価値の提供を与えることと、収益に貢献することの2つだと考えています。

 どちらに比重を置くかは事業内容や分析組織のフェーズによると思います。われわれは部門の立ち上げ段階ではアナリティクスグループの存在意義を示す必要があると考え、収益に直結するプロジェクトに注力してきました。そこで一定の成果が得られたので、これからはユーザー体験の向上を目的とした取り組みにも力を入れていくつもりです。

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