デジタル人類は企業の目線に立つと2種類に分かれる(図3)。顧客の中にいるデジタル人類と、自社の中に存在するデジタル人類の2種である。前者はイノベーティブな製品やサービスの最初の顧客になるし、後者がいないとその製品やサービスを企画できない。では、一体どうすればこの2種のデジタル人類を味方に付けられるのだろうか。

図3
まずデジタルな顧客だが、この顧客のニーズを正確につかむことは難しい。なぜならば、デジタルテクノロジが発展した今、このような顧客のニーズは”マイクロ化”しているからである。これは映像コンテンツへの接し方を例に考えれば分かりやすい。かつて映像コンテンツはTVが中心だった。「8時」に「テレビ」で「ドリフ」を観る時代においては、その時間にチャンネル権を握るお父さんが選んだテレビのコンテンツを楽しむしか方法がなかった。
一方現在は「好きな時間に」「好きな端末で」「好きなコンテンツ」を楽しめる。コンテンツへの接し方が根本から異なっており、見たい時間も、見る方法も、見たいコンテンツもすべからくマイクロ化していると言えよう。
ニーズが細分化されているということは、充分な準備をして一発大きく当てるというやり方はもはや適さない。小さく仕掛けて小さく失敗しながら徐々に大きくしていく手法が適しており、近年リーンスタートアップと呼ばれる新規事業立ち上げの手法がまさにそれである。こうした“リーンなやり方”をリードできるのが、社内のデジタル人類なのである。
デジタル人類はどこにいるのか
「デジタル人類なんて……そんな従業員はウチの会社にはいないですよ」と嘆く企業も多いかも知れない。しかしながら筆者の見立てでは、どの企業にもこのマインドを持った社員は必ず存在する。いないのではなく、見つけられていないだけなのだ。
デジタル人類は人類に既に一定の割合で存在するので、まず企業が真っ先にすべきことは、社内のデジタル人類を探し出し、その人間に適切な仕事を割り当てることにある。
適切な仕事とは、新規事業企画やデジタル戦略策定、ワークスタイル変革など、既存の枠組みに囚われず、会社を次のステージに進ませるための仕事である。
特に昨今では、IoTがテーマとなっているプロジェクトは往々にして破壊的(Disruptive)になるケースが多く、デジタル人類がリードすべき典型的なプロジェクトである。代表的な例を表1に示す。

表1
しかし、この試みを阻害する要因が2つある。1つめは、本来はデジタル人類へと変貌を遂げられる潜在能力がありながら、デジタルテクノロジそのものにアレルギーを持っている、技術的な理解力が低い、IT部門への信頼度が低いなどの理由で、自らがデジタル人類だと気が付かないケースである。
筆者が実際に見聞した例では、製造業の生産現場のマネージャーがITとの出会いによって覚醒した、という話がある。自らの経験値の延長線上で改善を考えるのではなく、デジタルテクノロジによって思いもよらない視点での示唆が得られることに気づき、データ分析の”面白さ”に目覚めたのである。このマネージャも立派なデジタル人類だ。
そしてもう一つの阻害要因は、プロジェクトにアサインされたデジタル人類が、残念ながら適切な権限を持っていないケースである。
特に、そのプロジェクトが会社として初の試みであったり、新規事業の立ち上げだったりする場合には、この権限の在処が大きく結果を左右する。いかに優秀なデジタル人類がプロジェクトをリードしていたとしても、権限がなければ肝心なところで重要な行動ができずにスタックしてしまうのだ。
本連載では、社内外に存在するデジタル人類をどうやって企業の利益につなげていくかを論じていきたいと思う。
第1回の本稿はやや概念的な解説に終始したが、第2回以降はできるだけ具体的な事例(特に、昨今取り組んでいるIoT関連の事例)をベースに論じていくつもりである。本連載終了後に読者の皆様やその周辺の方々がデジタル人類の仲間入りをしていることを期待し、執筆のモチベーションにしたいと考えている。
- 林大介(ウフル 執行役員)
- 電機メーカのエンジニア、通信システムインテグレーターのセールスを経てコンサルティングの道へ。ネットワーク、モバイルを中心とし た戦略立案、新規事業開拓、テクニカルアドバイザリーを中心としたプロジェクトを多数実施。昨今はクラウド、M2M、IoT/IoE などの技術トレンドを背景にしたデジタル戦略策定、IoT/IoE新規事業創造、ワークスタイル変革に注力し、各種戦略策定、変革実行支援などを手がける。