テクノロジとアカデミア、ビジネスの関係をさまざまな事例から解き明かす本連載。今回は、産業用ロボットコントローラ「MUJINコントローラ」の開発・販売などのソリューション提供を手がけるMUJINの最高経営責任者(CEO)、滝野一征氏に話を聞いた。
東京大学エッジキャピタルから投資を受けていることから「東大発」と言われることも多い同社だが、世界中の大学から最先端の研究を行うインターンシップの学生が集まっている。
--まずは事業の内容をお聞かせください。
MUJINは知能ロボットコントローラメーカーと呼ばれていますが、コントローラと言われても馴染みがないと思うので、MUJINが生まれた背景から説明しましょう。
日本の総人口は2020年までに2%減るとされていますが、20〜64歳の労働人口に限ると、4%減です。労働人口が減ると、人員数は変えずに売り上げを増大する必要が出るため、効率化のためにロボットを使うことは自然な流れです。ただ、ロボットのニーズは高いもののスマートフォンのように爆発的には伸びていません。なぜなら、産業用ロボットには4つの問題があるからです。
MUJIN 最高経営責任者(CEO) 滝野一征氏
1つ目は、メーカーごとに操作方法が違うことです。産業用ロボットはアームとコントローラが一対の構造です。アームの部分はシンプルで、どのメーカーでも中身はほぼ一緒ですが、脳みそであるコントローラの部分は、言語もアプリケーションもソフトウェアもメーカーによって異なります。
2つ目は、ロボットには“ティーチング”という動作を教えるプロセスが必要ということ。
3つ目はロボットは基本的に賢くないということです。たとえ3次元センサなどで対象物が見えたとしても、そこへの行き方をティーチングをされていないと動きません。
最後の4つ目は、コントローラを作るのが難しいため、新規ロボットメーカーになるのが非常に困難だということです。
これらの問題を克服するには、汎用的で知能的なコントローラが必要なのですが存在していません。ないのなら作るしかないということで、どのロボットでも使え、誰でも簡単に扱い、簡単に知能化できる、そして誰でもロボットメーカーになれるコントローラとして、「MUJINコントローラ」が誕生しました。
--コントローラを作ること自体も難しいということですが、なぜMUJINは4つの課題を克服したコントローラを作れたのでしょうか。
われわれには、ティーチレス技術、言い換えると「動作計画技術」があります。この技術によってロボットは自分で動作を考えられるようになります。例えば「この水を取って」と言ったら、これまではロボットに水の入ったペットボトルの形状や位置を教える必要があったのですが、動作計画技術では水を取るまでの動作が自動生成されるのです。ロボットが人間に近づく大きな一歩であり、ロボット界においても「ティーチング作業からのプレイバック」という世界から抜け出す一歩になります。
MUJIN のミッションは、誰もが産業用ロボットをつくり、知能化できる時代を作るということです。教えられた動作しかできない機械にMUJINコントローラを付ければ、操作系が統一されて汎用的になり、知能化できます。これは携帯の市場で例えると“ロボット界のAndroid”をつくるこということです。