Rethink Internet:インターネット再考

人類は「テクノロジによるバージョンアップ」をイメージできていない - (page 3)

高橋幸治

2017-05-03 07:00

 インターネットが情報の大海であることは間違いないにしても、それは漠然とした大洋ではなく、もっと身近なレベルで私たちの生存と密接に関わる別種のイメージとして捉えられるのではないか。

 「インターネット=情報の海」という比喩からより現実的なレベルにおける人間と情報との関係をイメージし直してみよう。おそらく現在の私たちは陸と海が接する沿岸部のような地帯に身を置いており、種々雑多な情報が行き交うその境界性において文化を生み出しているのではないだろうか。

 つまり、私たちは内陸的な農耕定住民のように情報の海を特別な場所として認識しているわけではなく、沿岸的な狩猟採集民のように情報の海に日常的にアクセスしている。

 冒頭に触れた『サピエンス全史』には、農耕定住民がそれほど進化や進歩に伴う安定性を享受していたとは一概に言い切れないばかりか、狩猟採集民がその原始性ゆえに常に危険や貧困にさらされ続けていたとはわけではないことが述べられている。

 確かに大多数の人類が狩猟や採集の生活から農耕へのシフトを体験したけれども、決してそれは全世界の人類が共通してたどる発達のプロセスではない。

 以下に同書の中からの一節を引用するので、「食物」というワードを現代における「情報」に置き換えて読んでいただくと面白いだろう。むしろ狩猟採集民のほうが農耕定住民よりも栄養価の高い「食物」(=「情報」)を摂取できていたのである。

 何が狩猟採集民を飢えや栄養不足から守ってくれていたかといえば、その秘密は食物の多様性にあった。農民は非常に限られた、バランスの悪い食事をする傾向にある。(中略)

 そのうえ彼らは、何であれ単一の種類の食べ物に頼っていなかったので、特定の食物が手に入らなくなっても、あまり困らなかった。農耕社会は、旱魃や火災、地震などでその年の稲やジャガイモなどの作物が台無しになれば、飢饉で散々な目に遭った。(中略)

 古代の狩猟採集民は、感染症の被害も少なかった。天然痘や麻疹(はしか)、結核など、農耕社会や工業社会を苦しめてきた感染症のほとんどは家畜に由来し、農業革命以降になって初めて人類も感染し始めた。

 <後編に続く>

高橋幸治
編集者/文筆家/メディアプランナー/クリエイティブディレクター。1968年、埼玉県生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒業後、1992年、電通入社。CMプランナー/コピーライターとして活動したのち、1995年、アスキー入社。2001年から2007年までMacとクリエイティブカルチャーをテーマとした異色のPC誌「MacPower」編集長。2008年、独立。以降、「編集=情報デザイン」をコンセプトに主にデジタルメディアの編集長/クリエイティブディレクター/メディアプランナーとして企業のメディア戦略などを数多く手がける。本業のかたわら日本大学芸術学部文芸学科、横浜美術大学美術学部美術・デザイン学科にて非常勤講師もつとめる。「エディターシップの可能性」を探求するセミナー「Editors' Lounge」主宰。著書に「メディア、編集、テクノロジー」(クロスメディア・バブリッシング刊)がある。

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