遠隔の家とのやりとり
コンピュータ化された家のまた別の要素としては、外出中に家の様子を確認したり、家の中の機器を操作したり、離れて暮らす家族を見守ったりといったことが挙げられる。
遠隔地から家へのインターフェース、と言えるだろう。
遠隔地の機器の操作を可能にする場合は、操作結果に対するしっかりしたフィードバックが重要である。意図通りに動いているか、トラブルが発生していないか、ということがきちんと確認できないと、安心して使うことはできない。これはもちろんスマートハウスでも同じであり、特に家電製品などの制御で火災などを起こす危険性は厳重に避けなければならない。
「見守り」の場合には、プライバシーや見守られている側のUXを確保・考慮しつつ必要充分な情報をいかに見せるか、がポイントである。電気ポットが見守り用の機器となっていて、その使用状況が遠隔地の家族に通知される、というサービスがあるが、これはUI/UX的にとても興味深い例と言えよう。
電気ポットが見守り用の機器メンテナンス、アップデート
ソフトウェアを主とした各種コンピュータ機器、ネットワークサービスを前提とした機器は柔軟で便利であるが、セキュリティ対策のためのアップデートの必要性や、サービス終了などにより使えなくなる、といったリスクもある。
旧来の(コンピュータ化されていない)家電機器は電源の規格や各種ソケットの規格があるので、(微妙に特殊なもので困ることもあるが)老朽化した際の交換なども容易で、あまり大きな問題はなく使えている。PCもネットワークの規格やUSBなどの規格によりいろいろと取り替えの自由が利く。
しかしスマートハウスやIoTの世界は今のところまだそこまで規格が整っているとは言えない。現時点で便利な環境をがっちりと構築しても、数年後、十数年後に交換などができず大いに困る、といった事態もあり得る。
そのリスクを完全に回避することは難しいであろうが、交換や代替がなるべく可能になるようにしておく、といった配慮は必要である。「累積的UX」(繰り返し・長期間使った上でのシステムの総合的な印象)という言葉もあるが、ある意味その先のUXまで考えるべし、と言えるかもしれない。
まとめ
スマートハウス、コンピュータ機器により賢くなった住環境に関していくつかの側面を見てきた。いうまでもなく、もっとも重要なのはそこに住まうユーザーにとって暮らしの何が改善されるのか、どういうエクスペリエンスがもたらされるのか、ということに尽きる。
暮らしの中のユーザーの行動が情報として家という環境のシステムに伝わり、それが何らかのアクションとなって環境からユーザーに返る、という流れを意識し、そこで何が実現できるかを想像し、近未来の住環境を自分の身の回りからデザインしていくことを考えたい。
- 綾塚 祐二
- 東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻修了。ソニーコンピュータサイエンス研究所、トヨタIT開発センター、ISID オープンイノベーションラボを経て、現在、株式会社クレスコ、技術研究所副所長。HCI が専門で、GUI、実世界指向インターフェース、拡張現実感、写真を用いたコミュニケーションなどの研究を行ってきている。