Rethink Internet:インターネット再考

インターネットの最大の利点は「非最適解が持つ価値への気付き」

高橋幸治

2017-05-04 07:00

<前編>

文化は多様な情報が行き交う「沿岸=境界」でこそ発生する

 前回の本稿ではイギリスの社会人類学者ティム・インゴルドの『ラインズ 線の文化史』(左右社刊)を引き合いに出しながら、“インターネットの新しいイメージモデルからしか、新しいビジネスモデルは生まれない”という趣旨のことを書いた。

 一方、「インターネット=情報の海」というメタファーを陸と海が接する沿岸部として捉え、そこに人間と情報との絶えざる交差が繰り広げられていると考えると、ITビジネスに求められている潜在的なインサイトもこれまでとは違ったものが見えてくるのではないだろうか。

 この沿岸と人類というテーマから文化の発生の起源にアプローチした文献として米国の歴史学社ジョン・R・ギリスによる『沿岸と20万年の人類史 「境界」に生きる人類、文明は海岸で生まれた』(一灯社刊)という優れた書物がある。

 同書でギリスははからずも前回の本稿で紹介したインゴルドについて触れながら以下のように述べている。


ギリス『沿岸と20万年の人類史』
ジョン・R・ギリスによる『沿岸と20万年の人類史 「境界」に生きる人類、文明は海岸で生まれた』(一灯社刊)。沿岸部が果たしてきた文化の生産スポットとしての歴史を紐解くと共に、現代の沿岸部がその重要性を剥奪されつつあることを指摘している

 今日、われわれは海岸に近づくと、陸と海を分ける線が頭に浮かんでくる。だが、ティム・インゴルドが指摘しているように、自然界に線は存在しない。実際、沿岸は断続的で断片的で、次元分裂図形(フラクタル)だ。

 便宜上作られたものである海岸線は「現代性の仮想の像、物質世界の変化に対する論理的で意図的な設計の印」である。レイチェル・カーソンのような環境保護論者にとっては「海の端はとらえどころがなく定義できない境界」だ。だがそれは、現代に生きるわれわれにとって失われた事実である。

 陸と海を直線的な思考によって画然と区別する態度は極めて近代的な認識のフレームであり、本来、沿岸は陸と海の明瞭な弁別ができないグラーデーションのような両義的かつ不定形なエリアとして存在する。

 ギリスの指摘している通り、これは「現代に生きるわれわれにとって失われた事実」であって、その結果として、「インターネット=情報の海」という喩えは茫漠と広がる大海原のような圧倒的な異世界として連想されてしまう。

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