日本IBM 代表取締役社長のElly Keinan氏
日本IBMは4月26日、コグニティブ(認知)技術「Watson」をテーマしたカンファレンス「IBM Watson Summit 2017」を都内で開催した。基調講演に登壇した代表取締役社長のElly Keinan氏は、2017年中に世界で10億人がWatsonを利用するとの目標を表明した。
2回目となる同イベントは「コグニティブ&クラウド」を副題に、WatsonとIBMのクラウドサービスの最新動向を企業顧客らに紹介する。Keinan氏は、初開催の前回がWatsonや人工知能(AI)を日本市場に認知してもらうことが目標だったのに対し、今回はWatsonをどのように実用していくかがテーマだと説明した。
「Watsonは、2011年にテレビのクイズ番組『Jeopardy』で初めて勝利して以降、AIの急速な進化や数々のスタートアップ企業の活躍なども通じて成長を続けてきた。2016年は世界で4億人がWatsonに触れた。2017年は10億人以上が利用することになるだろう」(Keinan氏)
現在、Watsonのエコシステムパートナーは世界で500社以上あり、国内でも40社以上からWatsonおよびWatsonの基盤となるIBM Cloudを利用したソリューションが既に提供されているという。
Keinan氏は、Watsonがこれまでビジネスの変革、あるいはプロフェッショナルのサポートや業界を超えたコラボレーションなどに貢献してきたと強調する。
例えば、企業がコンプライアンスや法令への違反を回避するために必要とする知見を提供したり、医療では遺伝子レベルでの疾病因子の発見に成功したりした。大規模な生産設備における故障などの予兆検知や、サイバーセキュリティでの膨大なイベント情報の分析などでも活用されている。また、過去の楽曲データをもとにWatsonが作曲した「Not Easy」がBillboardのヒットチャートにランキングされるなど、クリエイティブの面でも成果を出した。
Keinan氏は、Watsonがこれまで以上に多様なシーンで利用されるようになるとし、Watsonの成功には(1)コグニティブ中心、(2)データファースト、(3)エンタープライズストロング――の3つの要因が不可欠と述べた。具体的に(1)ではWatsonを業務の中心に据えることで専門家のワークロードを支援する。(2)ではWatsonがビッグデータから競争優位を生み出す。(3)ではクラウドプラットフォームが企業の成長や変化のスピードを実現するという。
基調講演では米IBM ハイブリッドクラウド シニアバイスプレジデント兼IBMリサーチ ディレクターのArvind Krishna氏も登壇。毎日生成されるビッグデータを解析するAIとその基盤となるクラウドが、企業ビジネスにおける頭脳の役割を果たすと述べた。
例えば、人のヘルスケアデータは生涯を通じて1100テラバイトにもなり、その60%が外的な因子に関わる。30%は遺伝子のゲノム因子に関連し、臨床に関するものは10%にとどまる。Krishna氏は、臨床などでカバーし切れないデータが人の健康に大きな影響を与えるとし、「この膨大なデータから医師の助けになる知見を提供するのがWatsonの役割」と語る。
健康・医療分野におけるWatsonの知識ベース
Krishna氏は講演後に、メディアおよびアナリストの質疑にも答えた。4月に就任したばかりのKeinan氏の評価については、「長年の関係もあるが、IBMの中では非常に信頼されている。日本IBMは、IBM全体にとって現地法人の1つではなく重要な存在。Keinan氏はそのトップにふさわしい人物だ」とコメント。
米IBM ハイブリッドクラウド担当シニアバイスプレジデント兼IBMリサーチ ディレクターのArvind Krishna氏
また業績については、「既にAIやクラウドなどの注力分野が40%前後を占めるまでに拡大し、2けた成長が続く。全体では横ばいかもしれないが、注力分野の比重はますます拡大する」と述べた。
同社が開発を進める「TrueNorth」プロセッサに関しては、「従来に比べて圧倒的な低消費電力を実現し、今後において特にAIあるいはエッジコンピューティングでは大きく貢献することになるだろう」と話した。