デジタル技術活用の勘所
ここまでの事例を踏まえると、デジタル技術を生かした離職率の低減、それに伴う採用コスト削減の道筋が見えてくる。確実に言えるのは、逆説的だが「デジタル技術単体では成果は出ない」という点である。上記のいずれの企業も、最終的に離職率を低減させているのは、上司の気遣いでありマネジメントである。デジタル技術は、あくまでその手助けをしているに過ぎない。
また、この離職率低下の仕組みをつくりあげたのが本社主導であることにも着目したい。日本企業の多くの管理職は、いわゆる「プレイングマネージャー」であり、自身も業務遂行の一翼を担っていることが多い。そのことは、部下の状況を観察し、顔色を見た上で適切な助言をあたるような時間が減っていることを意味している。
また、いわゆる「飲みニュケーション」の機会の減少、セクハラ・パワハラ規制の強化による管理職の委縮、世代を超えた付き合いを好まない文化の浸透なども、このマネジメント力の低下の一因である。
C社のような国内サービス業であっても外国人社員の採用など、今後人材マネジメントに求められる難易度は高まるばかりである。その際に、ミスマッチによる離職を防ぐことが、デジタル化された人材マネジメントの一つの貢献分野となるであろう。
- 笛木 克純(ふえき・かつずみ)
- A.T. カーニー プリンシパル
- 慶應義塾大学総合政策学部卒、INSEAD(欧州経営大学院)経営学修了。人事系コンサルティングファーム、ベンチャー企業などを経てA.T. カーニーに入社。ヘルスケア、消費財、不動産などを中心に、組織戦略、人事戦略、オペレーション改革、新規事業戦略、ポートフォリオ戦略、シナリオプランニング、中計策定支援などを含む全社・事業戦略等を支援。主要メディア・雑誌に人事・組織関連テーマについての執筆多数。著書に「外資系コンサルが教える『勝ち方』の教科書」(中経出版)がある。