こちらの了解のもと音声を勝手に収集して解析し、状況に合わせたコンテンツを提示する、という文脈では全く同じことが起きている。これに先ほどと同じだけのNoが突きつけられるであろうか。
昨今誰もリスティング広告を「気持ち悪い」と言わないように、このようなサービスから得られるメリットが「気持ち悪さ」を上回った場合、ヒトは受け入れて”覚醒”してしまうこともあるかもしれない。
見極めが難しいからこそ実証する
ヒトの摂理に反し、将来の顧客を敵に回してしまうかどうかの基準は、実は非常にあいまいで線引きの難しいものであり、文字通りどちらに転がるか分からない(図3)。
筆者の予想に反してウェアラブル端末が「来る」かも知れないし、周囲の音を拾って広告を出すようなサービスはいつまで経っても断固受け入れられないかも知れない。
ヒトを覚醒させるデジタイゼーションなのか、ヒトを敵に回す暴挙なのかを、机上の検討だけで見極めることは至難の業である。過去からパターンを学ぶことはできるが、将来が約束されるわけではない。

図3
だからこそ、われわれは挑戦してその可能性を実証するべきである。昨今、PoC(Proof of Concept:概念実証)が盛んなのはこのような背景からである。ただ、単に技術を試す実験ではなく、ビジネスとして成立するかどうかを試している実証実験は少ないと感じている。
ヒトの覚醒につながるかどうか、その一点を見極める鋭い洞察と仮説、およびそれらを検証する根気強い実験を乗り越えた企業が大きな勝利を手にするだろう。
今読者諸氏が手がけているそのプロジェクト、もしイノベーティブなものを目指しているのであれば、ヒトの”何”を覚醒させるかを今一度立ち止まって考えてみてはいかがだろうか。
デジタル人類は必ず、ヒトを覚醒させる試みを強く支持する。それがたとえ、インターネットのように世の中のルールを大きく変えるものであっても、である。
- 林大介(ウフル 執行役員)
- 電機メーカのエンジニア、通信システムインテグレーターのセールスを経てコンサルティングの道へ。ネットワーク、モバイルを中心とし た戦略立案、新規事業開拓、テクニカルアドバイザリーを中心としたプロジェクトを多数実施。昨今はクラウド、M2M、IoT/IoE などの技術トレンドを背景にしたデジタル戦略策定、IoT/IoE新規事業創造、ワークスタイル変革に注力し、各種戦略策定、変革実行支援などを手がける。