米Ayla Networksは、IoT(Internet of Things)のプラットフォーム機能をクラウドサービス型で提供している企業だ。サービス名称は「Ayla Cloud」で、空調機器などのIoTデバイスをクラウドから制御する機能やIoTデータを収集して可視化する機能を提供する。
ユーザーは、空調機器や家電などのIoTデバイスを開発しているメーカーになる。北米や中国、欧州、日本などグローバル市場で事業を展開している。国内では、日立ジョンソンコントロールズ空調、富士通ゼネラル、リンナイなどがユーザーだ。
Ayla Cloudは、3つの要素で構成する。IoTデバイスの管理機能をクラウド上で提供する「Ayla Cloud」本体、IoTデバイスに組み込むエージェントモジュール「Embedded Agents」、IoTデバイスを制御する機能を備えたスマートフォンアプリを開発するためのライブラリ「App Libraries」だ。
Ayla Cloudは、IoTデバイスの運用管理アプリケーションで、パブリッククラウドのAmazon Web Services(AWS)上で動作している。IoTデバイスと通信して制御する機能や、IoTデバイスからデータを収集して可視化する機能をクラウド上で提供する。
「IoTはまずはネットにつなげることに注力されがちだが、データの活用に真の価値がある。データの活用次第でIoTデバイスが世の中に広まっていくかどうかが決まる。もはや価格競争では差別化できない」と米Ayla Networksのカスタマーサクセス部門でバイスプレジデントを務めるMike Merit氏はデータ解析の重要性を説く。
クラウド上で管理しているデータは、ウェブAPI(REST API)経由で取得できる。別途分析ツールなどにデータを取り込んで分析することでIoTデバイス開発者は、これを予防保全などのメンテナンスや製品サポートに利用できる。「多くのユーザーがデータを保守に活用している」(Mike Merit氏)という。
カスタマーサクセス部門でバイスプレジデントを務めるMike Merit氏
IoTデバイスの制御や可視化をクラウドで提供
IoTデバイスに組み込むEmbedded Agentsはライセンスフリーで、IoTデバイス開発者が自社製品に自由に組み込むことができる。エコシステムも形成されており、例えば村田製作所がEmbedded Agentsを組み込んだ無線LAN通信モジュールを販売している。これを採用したIoTデバイスはAyla Cloudに容易に接続できる。
Ayla Cloudの競合は、IoTデバイスを開発するメーカーが自社で運用している運用管理用のプライベートクラウドになる。大手のIoTデバイスメーカーは自社でこうしたクラウドを運営している。一方で、コストの安さやサービスメニューが整備されていること、全世界で利用できることなどから、自社運営クラウドからAyla Cloudに移行するトレンドがある。
国内ユーザーのうち、自社運営クラウドからAyla Cloudに移行したのが富士通ゼネラルだ。空調機器を対象に北米や中国、欧州でAyla Cloudを使っている。今後、ブラジルとオーストラリアでも利用を始める。地域ごとに規制に対応したり独自性を出したりする必要があるので、日本でのサービス開始には時間がかかっている。
どう使われているかを解析して製品開発にフィードバック
先頃開催された展示会「IoT/M2M展」のブースでは、Ayla Cloudの直近のハイライトとして、IoTデータを可視化して解析する機能の新版「Ayla Insight 2.0」と、音声認識サービス「Amazon Alexa」やチャットサービス「WeChat」との連携を中心に展示した。
データ解析機能のAyla Insight 2.0は、IoTデバイスの開発者がIoTデータを解析して自社製品の開発にフィードバックできるようにした。従来版のAyla Insight 1.0では、IoTデバイスの稼働状況を把握できるだけだったが、Ayla Insight 2.0になって収集できるIoTデータの項目を増やしたほか、これを可視化して解析する能力を追加した。
IoTデバイスが顧客先でどのように使わているかを解析して次世代の製品開発にフィードバックしているユーザー事例の1つが、シーリングファンを開発している米Hunter Fanだ。時間帯や環境の違いによってファンのオンオフや回転数の変化、その他機能のオンオフなどを調べている。
AlexaやWeChatからIoTデバイスを操作
Alexaとの連携は、2016年夏に開始し、ここ3カ月ほどで北米のユーザーがフィールド実験を開始した。「音声で空調機器をコントロールする使い方、音声でコーヒーメーカーを動かす使い方が、すでにできている」(Mike Merit氏)
従来も、AWS上で自らコードを書きさえすれば、Alexaで自社のIoTデバイスを制御することはできた。この一方で、Ayla Cloudを使うと、AWS上でコードを書くことなく、Alexaを使ってIoTデバイスを制御できるようになる。
WeChatとは約半年前から連携している。WeChatのチャット画面でコマンドを入力することでIoTデバイスを制御できる仕組みだ。他のチャットツールとの連携についても、各種SNSベンダーと話をしている最中だ。
最初にWeChatと連携した理由は、中国のモバイルユーザーのマインドだ。友人同士のコミュニケーションだけでなく、買い物からホテルのチェックインまで、すべての消費活用をWeChatで完結させたい、という意思が強い。こうした中国市場を睨んで、WeChatと自社製品を連携させている日本のIoTデバイス開発者もいるという。