今夏から本格化予定の欧州DIAS:誰が参入してくるのか
欧州では、欧州宇宙機関(ESA)が「Copernicus」と呼ばれるリモートセンシング衛星コンステレーション・システムを構築・運用している。
現在、Copernicusを構成する衛星「Sentinel」の撮像データを産業向けに、プラットフォーム事業者を介することで展開するData and Information Access Service(DIAS)が実施中である。
ESAでは、従来Sentinels Scientific Data Hubという、Sentinelのデータ提供を行うプラットフォーム事業が運用されているが、研究機関及び一般利用を目的とした設計がなされている。利用できるデータ量など、諸々の制約がビジネスに適合していなかったことも背景にあり、まさに「産業界のために」このDIASが立ち上がった。
DIASでは、クラウド技術を持つプラットフォーム事業者を複数選定、ESAから各事業者にSentinelのデータを無償提供すると共に、一契約あたり期間中1000万~1600万ユーロの事業費支援を行うことを予定している。
どのようなデータビジネスを展開するかについては、BDP同様、原則として各事業者に委ねられるが、DIASにおいては、Third Partyと呼ばれるエンドユーザーに近いサービスを提供する事業者を巻き込んだ事業展開が、各採択事業者に求められる。
当プログラムは2017年からの4年間を基本とする施策であり、本稿執筆時点では、システム運用には至っていない。採択事業者の選定結果、7月に公表される予定だ。

欧州ESAのData and Information Access Service
次世代IT業界からの宇宙ビジネス参入
日本には、今日時点でAWSやGoogle Cloudなどに匹敵するグローバル・スタンダードのITプラットフォームや、それを支えるプレイヤーが存在しない。その前提において、どのように宇宙×次世代ITを進めていくか検討が重要である。
宇宙ビジネスの当面の主戦場は衛星データ・ビジネスだが、この領域では、既にグローバルな競争が起きていることはこれまで解説した通りだ。世界のトレンドとの整合性やスピード感を持って事業展開ができるプレイヤーが、宇宙系だけでなくIT系など、他産業から出てくることが待たれる。
そして、先行する欧米勢と渡り合うためには、そのプレイヤーを見つけ、支援する仕組みが必要だ。その意味で、宇宙産業ビジョン2030において、ベンチャーが今後の重要なプレイヤーとして強調されていることは、必然の流れと言えよう。
宇宙ベンチャーだけではなくIT系など、他産業のベンチャーを交えた取り組みが、日本でも今後進んでいくものと予想する。次世代IT事業者にとって、大きなビジネスチャンスがそこに待っている。
- 佐藤将史 株式会社野村総合研究所 上級コンサルタント
- 宇宙業界やベンチャー振興を軸に、科学技術・イノベーション関連の政府・企業をクライアントとしたコンサルティング事業に従事。政策立案からビジネス戦略まで幅広く行う。東京大学理学部卒(2001年、地球惑星物理)、同大学院理学系研究科修了(2003年、地球惑星科学)、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)MPP(2013年、公共政策修士)。 総務省「宇宙xICTに関する懇談会」構成員。JAXA「GOSAT-2/Khalifasat相乗り超小型衛星の選定」委員。一般社団法人SPACETIDE共同創設者・理事。