日本株展望

消化不良のロシア疑惑--今後の展開は?

ZDNet Japan Staff 2017年05月24日 11時08分

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

今日のポイント

  1. ロシアゲート疑惑が今後深まるか、収束に向かうか、予断を許さない。金融市場は材料待ちで小動き。次の注目は30日以降に予定されるコミー前FBI長官の議会証言
  2. トランプ大統領が政策実行能力を失う中で、対外強硬策を次々打ち出すのが最悪シナリオ。疑惑が早期終結するのが、楽観シナリオ

 これら2点について、楽天証券経済研究所長兼チーフストラテジストの窪田真之氏の見解を紹介する。

消化不良のロシアゲート疑惑

 先週17日、米司法省はロシアゲート疑惑(昨年の米大統領選にロシアが介入、ロシアとトランプ大統領が結託していたとの疑惑)を捜査する特別検察官の設置を決め、ロバート・モラー元FBI長官を任命すると、金融市場に衝撃が走った。トランプ大統領の弾劾・罷免にまで発展する可能性のある問題発生から、17~18日は世界的にドル安(円高)が進み、株が売られた。18日、一時1ドル110.23円まで円高が進み、日経平均は一時1万9449円まで売られた。しかしその後、ドル円・株とも小反発し、小動きとなっている。23日の日経平均は1万9613円で引け、為替は同日17時時点で1ドル111.20円で推移している。

 モラー特別検察官がどこまでトランプ大統領を追い詰められるか、現時点で未知数である。ただ、仮にトランプ大統領に不利な事実が次々と判明しても、実際に大統領を弾劾・罷免するのはハードルが高く、実現は困難だ。

 市場はいったん落ち着いたものの、今後事態が急進展する可能性が無いとは言えず、様子見となっている。ロシア疑惑は、消化不良の状態である。

 目先の材料として、5月30日以降に予定されているコミー前FBI長官の議会証言がある。コミー氏は、トランプ大統領によって5月9日にFBI長官を解任された。解任前に、ロシアゲート疑惑の中心人物と見られているフリン前大統領補佐官の調査を進めていたが、トランプ大統領から、捜査を終了するよう圧力をかけられていたと考えられている。コミー氏の議会証言で、トランプ大統領を追い詰めるような内容が出ると、再び金融市場に不安が広がる可能性がある。

今後考えられる最悪・最善シナリオ

 今後、ロシア疑惑がどのような展開となるか、予断を許さない。ここで、金融市場にとっての最悪シナリオと最善シナリオについて考えてみる。最悪シナリオは、起こる可能性が高いとは言えないものの、あり得るものである。最善シナリオは、同じく起こる可能性が高いとは言えないが、無いとは言えない楽観的なシナリオだ。

 それでは、今回のロシア疑惑で最悪のシナリオは何か、まず考えてみよう。疑惑が疑惑のまま長期化し、時間をかけて少しずつ深まっていくのが、最悪シナリオと考える。1カ月後・3カ月後・6カ月後にも、新事実が少しずつ明らかになり、トランプ大統領が徐々に窮地に追い詰められていくシナリオである。

 大統領支持率は、米ギャラップ調査では既に38%と、政権発足以来の最低に落ちているが、ここからさらに低下していく可能性がある。身内の共和党議員は、来年11月に中間選挙を控えているので、このままトランプ大統領を担いでいたら自身の支持基盤も危うくなると、トランプ離れを起こすだろう。そうなると、大型減税や公共投資などの景気刺激策を実施することもできず、トランプ大統領に投票した米国民からもブーイングを受けることになりそうだ。

 最悪シナリオでは、ここでトランプ大統領が起死回生の挽回策に出ることを想定する。軍事的にも経済政策でも、対外強硬策を打ち出す。中国・日本・メキシコなど、対米貿易黒字国に対して不適切な要求を繰り返す。トランプ大統領の持論である円安批判のトーンを強め、円高を誘導するかもしれない。

 それでも、大統領の弾劾・罷免は成立しない。弾劾・罷免には、下院の半数・上院の3分の2以上の賛成が必要である。共和党が支配する上・下院で、共和党大統領の弾劾は成立しそうにない。政策実行能力を失い、対外強硬策を振り回すトランプ大統領が、4年の任期を全うするのが、最悪シナリオである。

 それでは、市場にとっての最善シナリオはどのようなものだろう? 疑惑がなんらかの形で早期決着するのが、最善シナリオだ。2つのパターンが考えられる。トランプ大統領が早期に失脚するケースと、指導力を取り戻すケースである。

 可能性は低いが、短期で疑惑が核心に迫り、トランプ大統領があっさり辞任するのも、金融市場にとって悪くない結果になると思う。その場合、ペンス副大統領が大統領に昇格すると考えられる。そこで良識ある共和党政権に戻れば、米議会は上院下院とも共和党が支配しているので、強いリーダーシップを回復できる可能性がある。

 もう1つのパターンは、確率は高くはないが、モラー特別検察官が短期的に捜査を終結し、「ロシア疑惑へのトランプ大統領の関与はない」と結論を出すことである。米国民の納得が得られそうになく、完全なベストシナリオとはいえない。それでもトランプ大統領が支持を回復し、大型減税などに道筋をつければ、金融市場は好感するだろう。

 最後に、メインシナリオを話す。メインシナリオは、最悪シナリオとベストシナリオの中間にある。疑惑は長期化するが、決定的な証拠は出ず、潜在的な悪材料として残るというのが、メインシナリオである。

 トランプ大統領は、指導力が低下するが、規模を縮小しながらもなんとか大型減税や公共投資を実行していくというシナリオである。日本の景気・企業業績も順調に回復が続くと考えられる。その場合、日経平均は急落・急騰を繰り返しながら、徐々に下値を切り上げていくと想定される。

 さて、今後どういう展開になるだろうか? 経験則では、多くの人が考えるメインシナリオや市場コンセンサスは、意外と実現しないものである。あり得ないと思った最悪シナリオや、ベストシナリオに近いことが起こってしまうこともある。今後のロシア疑惑の進展から目が離せない。

【参考】ロシアゲート疑惑

 トランプ大統領がロシアと結託し、昨年の大統領選に影響を与えたという疑惑。昨年の大統領選直前にヒラリー・クリントン候補に不利な情報がばらまかれたが、それがロシアによるハッキングによるとの疑いがある。さらにトランプ大統領がロシアと結託し、ロシアを動かしたという疑惑がある。

 大統領選に敗れたヒラリー・クリントン候補には、国務長官時代に外国政府から献金を受けて、便宜をはかった疑いがかかっていた。クリントン候補は、国務長官時代に公務で私用メールを使っていた問題があり、その私用メールを徹底的に調べることで、外国政府との癒着が判明する可能性があると、当時考えられていた。その私用メール調査を、コミー前FBI長官のもとでFBIが捜査していた。コミー前長官は、昨年7月6日にいったん「メール疑惑は捜査の結果、訴追に相当しない」と捜査打ち切りを発表した。

 ところがその後、何者かによってクリントン候補の私用メールが大量にばらまかれる事態が起こった。それを受け、コミー氏は大統領選まで2週間を切った10月28日、クリントン候補の私用メールの捜査再開を議会に通知した。そして、大統領選の2日前の11月6日に、「全てのメールを調べて問題なく、訴追を求めない方針に変更なし」と捜査終了を明らかにした。選挙直前の捜査再開と不可解な捜査終了発表が、選挙でクリントン候補に不利に働いたとの見方がある。

 今回のロシア疑惑は、ニクソン大統領を辞任に追い込んだウォーターゲート事件並みの重大事件に発展する可能性があるという意味で、「ロシアゲート疑惑」と呼ばれている。

 過去記事は、キーワード「日本株展望」から読めます。

ZDNet Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

この記事を読んだ方に

関連ホワイトペーパー

連載

CIO
デジタル“失敗学”
コンサルティング現場のカラクリ
Rethink Internet:インターネット再考
インシデントをもたらすヒューマンエラー
トランザクションの今昔物語
エリック松永のデジタルIQ道場
研究現場から見たAI
Fintechの正体
米ZDNet編集長Larryの独り言
大木豊成「仕事で使うアップルのトリセツ」
山本雅史「ハードから読み解くITトレンド放談」
田中克己「2020年のIT企業」
松岡功「一言もの申す」
松岡功「今週の明言」
内山悟志「IT部門はどこに向かうのか」
林 雅之「デジタル未来からの手紙」
谷川耕一「エンプラITならこれは知っとけ」
大河原克行「エンプラ徒然」
内製化とユーザー体験の関係
「プロジェクトマネジメント」の解き方
ITは「ひみつ道具」の夢を見る
セキュリティ
企業セキュリティの歩き方
サイバーセキュリティ未来考
ネットワークセキュリティの要諦
セキュリティの論点
スペシャル
ざっくりわかるSNSマーケティング入門
課題解決のためのUI/UX
誰もが開発者になる時代 ~業務システム開発の現場を行く~
「Windows 10」法人導入の手引き
ソフトウェア開発パラダイムの進化
エンタープライズトレンド
10の事情
座談会@ZDNet
Dr.津田のクラウドトップガン対談
Gartner Symposium
IBM World of Watson
de:code
Sapphire Now
VMworld
Microsoft WPC
Microsoft Connect()
HPE Discover
Oracle OpenWorld
Dell EMC World
AWS re:Invent
AWS Summit
PTC LiveWorx
吉田行男「より賢く活用するためのOSS最新動向」
古賀政純「Dockerがもたらすビジネス変革」
中国ビジネス四方山話
ベトナムでビジネス
日本株展望
企業決算
このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]