渡邉氏:また、「クロスアポイントメント制度」の促進にも触れました。これは先生たちが大学と企業の両方で働ける制度で、先生が大学と企業の両方で、50%ずつなどの業務を負担し、お金もそれぞれからもらうというシステムです。大学が経済的に厳しい中で、先生の知能を使ってお金を稼ぐことは大型の産学連携に繋がりますので、その後押しをしています。

「産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン」(イノベーション促進産学官対話会議 事務局)p46より引用
--そもそも、大学の先生は企業と連携したいと思っているのでしょうか。
渡邉氏:大学紛争のころには、企業から金をもらうことが学問を汚すという考え方があり、今でも社会から干渉を受けないで真理を追求したいという先生もいるとは思います。一般的に、大学の先生のなかで共同研究をしているのは3割と言われています。残りの7割には、共同研究をしたくてもネットワークがないなどの理由で実現できていない先生もいるため、その人達にどう拡大していくかが課題です。研究の成果は、先生方が思っている以上に社会へのインパクトが大きいことがあるので、企業や大学の産学連携本部などと話して、上手く活用してほしいです。
--産学連携推進において、企業には何が求められるのでしょうか。
渡邉氏:先ほどお話した「3倍目標」をどう実行するかは、われわれが整えていかなければなりません。今回のファクトブックは経団連と一緒に出しているのですが、トップで産学連携を進められている企業を除けば、ほとんどの企業には、大学の中身が見えてません。ファクトブックでは、大学のリソースや実績、得意分野、特許などを一覧していますので、大学がどういうポテンシャリティを持っているのかを見ていただければと思います。
--企業側はどんな体制を整える必要があるのでしょう。
渡邉氏:成功している企業を見ると、経営企画のような部門に未来開拓系や産学連携部隊がいて、彼らが最高技術責任者(CTO)の直下で大学を探したり、共同研究をしているパターンがあります。CTOと学長とで直接議論をし、最終的に億単位のお金をプロジェクトとして組成するということもありますね。
田村氏:長期的な共同研究では、経営レベルの人たちがビジョンをすり合わせて方向を合意し、号令をかけるという形で、コミットメントを出すことが重要です。
渡邉氏:また、大学をコンサルタント組織のように使うことも可能です。長期的なものほど、技術だけでは見通せません。例えばAIなら、AIの技術だけではなく、老年人口などの社会構造を扱う人文社会系の知識も必要です。そのため、大学側にそういった知識を扱うチームを作ってもらうパターンも出始めています。文化人類学や考古学の世界から理系の技術を見るなど、大学は企業とは違う見方をできるのです。