ーーもともとは偶然の出会いという感じですね。これが現在の活動につながっているのは驚きです。さて、量子アニーリングを導入することによる苦労は感じましたか。
本橋:もともと社内では、高柳と棚橋が量子アニーリングの研究開発を進めている中、私は突然この活動に参加することになりました。
私は(機械学習など)数理最適化を仕事で使った経験はありますが、物理を専門に学んだことはなかったため、最初は、量子って何? という感じでした(笑)。
正直今も、完全には量子アニーリングの原理は理解できてはいないのですが、利用することへの障害にはなっていません。量子アニーリングの目的は組合せ最適化問題を解くことです。
そのため、解きたい組合せ最適化問題をD-Waveへの入力形式に変換する能力と、ある程度のプログラミング能力さえあれば良いからです(筆者注:D-Waveへ入力可能な形式については、西森秀稔、大関真之『量子コンピュータが人工知能を加速する』(日経BP)などに詳しく掲載)。
もちろん私にとって新しいことも勉強しています。特に、量子アニーリングマシンをチューニングする際の物理知識です。
しかしこれらは、D-Wave Systemsのエンジニアと議論をすることによってアドバイスをもらえますし、高柳や棚橋が先にこの活動を進めているため、彼らから学ぶことも多く、とても心強いです。こうしたノウハウは今後、共通的な知識として整備されていくでしょう。

棚橋:使ってみて初めて感じたことですが、解きたい問題をハードウェアに載せるまでに考えなければいけないことがたくさんあるなという印象でした。
特殊なテクニックが必要になることもありましたが、D-Wave Systemsのエンジニアとの議論で解決することができています。
D-Wave Systemsのエンジニアはとても幅が広く、回路設計、理論物理、数学、機械学習など多岐にわたる分野の専門家が一つのオフィスに集まっており、われわれの取り組みにも幅広い知識でていねいに支えてくれました。
ーーハードウェアを開発しているD-Wave Systemsとの連携があることによって、さまざまな課題解決に至ったということですね。ハードウェア開発側としても、応用を考えるプレーヤーからの意見が重要になることはとても多いと聞きます。ところで、世界各地で量子アニーリングマシンやそれに近いマシンが次々に開発されています。それらに求めること、期待は何かありますか。
高柳:計算速度・問題サイズ・ハードウェアのマッピングなど、どれか1つの機能が他よりも圧倒的にすごいという特徴を持っていると、「この用途にはこのマシンを使おう!」と考えやすくなります。そのため、さまざまなマシンが次々と開発されるのはわれわれにとって、とてもありがたいことです。