これらの技術を見ていると「視覚」も「聴覚」も少なくとも<送信側>に置いては融合していく未来が感じられる。今後はさらに人工知能のパターン認識技術によって「情報」が人間の感覚を超えてマルチモーダル(音声や画像、言語などの複数の情報源を用いてシステムとコミュニケーションする手法)に構造化されていくだろう。
そしてもしかしたら<受信側>においても、その「情報」を解読するために人間の認知や身体の感覚がマルチモーダルに変化していくのかも知れない。
例えば、「点字」は「触覚」で文字を「見る」ものである。生理学研究所の定藤規弘教授の研究によると、視覚障がい者が点字を読む際に脳内で発火するのは「視覚野」であることが分かったそうだ。コウモリやイルカは超音波で周囲の環境を計測する「エコーケーション」で知られているが、これは「聴覚」で周囲を「見る」ものと言える。
エコーロケーションのイメージ CC BY-SA 3.0, Malene Thyssen,
東京工業大学の伊藤亜紗准教授は、著書(注)の中で「耳で見る、目で聞く、鼻で食べる、口で嗅ぐ」と表現し、生物が何かをするのにどの器官を使うかは問題ではなく、ポイントは「パターン」を認識してその連続性に意味を見いだすことではないか、と述べている。
現在これほどに「視覚優位」の社会になったのはテレビやインターネットが登場した最近のことであり、そもそも「五感」という概念自体がアリストテレス以来の西洋的なものなので、平安時代の日本人の感覚のあり方はかなり違ったはずだ。もしかしたら今では「共感覚」とされるような感覚のあり方がごく普通だったかもしれない。
(注)伊藤亜紗『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(光文社新書)。表現は一部筆者が改編
それでは(こうした状況を踏まえて)世界の最先端企業は現在、どのような方向に行こうとしているのだろうか。