この3月にElon Muskが「Neuralink(ニューラリンク)」という新しい会社を設立し、脳に電極を接続し人間と機械が直接通信する技術「ニューラレース」に乗りだしたことが話題になった。さらに翌4月にはFacebookのRegina Duganが開発者向けカンファレンス「F8」にて非侵襲センサによる光学イメージング技術によって脳波から直接毎分100語ものテキスト入力する目標を発表した(詳しくはこちら。1:13:40過ぎ)。
これは現在のスマホでの手入力の5倍ものスピードで、情報量の多い拡張現実(AR)のコミュニケーションには欠かせない技術と位置付けている。さらに皮膚から得られる触覚の信号を脳内で言語変換する取組みも紹介されており、五感の壁を超えた言語の再構築を目指していることも明らかにされた。
思い起こせば2010年に孫正義が発表したソフトバンクの『新30年ビジョン』では「脳からコンピュータのチップに通信する時代が300年以内に必ず生まれる」「300年後のソフトバンクは携帯電話会社ではなくテレパシー会社かもしれない」と述べていた。
ソフトバンク「新30年ビジョン」スライドP63より。
つまりテレパシー(ここではSF的なものでだけではなく既に玩具として製品化されているような脳波コミュニケーション全般を指す)は、続々と先端企業が開発を公言しており、この様子だと実現するのに300年もかからないかも知れない。
実際、Regina Duganは「数年以内にはリアルタイムで毎分100語を伝える“サイレントスピーチ認識システム”を発表できる見込み」と述べている。
ここでは大きく「テレパシー」とくくったが、これらの企業の背景として共通するように思われるのは、(1)機械と機械、(2)人間と機械、(3)人間と人間が、ノンバーバルなイメージによってマルチモーダルでダイレクトに高速で通信する世界観である。
こうなると「感覚まるごと」通信してしまうわけが、それでは永らく人間を人間たらしめているとされてきた「言語」は一体どこに向かっていくのだろうか。
その意味でも映画『メッセージ』は興味深く、ヘプタボットの「輪」で示される文字(記号)は時間感覚をも内包しており、主人公がそれを解読することで得られた認知能力をもとに出版する本の題名が「The Universal Language(普遍言語)」であることはとても示唆的と感じた。
- 日塔史(にっとう ふみと)
- (株)電通 ビジネス・クリエーション・センター 主任研究員、(株)電通ライブ 第1クリエーティブルーム チーフ・プランナー、日本マーケティング協会 客員研究員。 現在、「ヒアラブル」をテーマにソリューションを開発中。日本広告業協会懸賞論文「論文の部」金賞連続受賞(2014年度、2015年度)。電通報ほか寄稿・講演多数。