UIをその「専門家」が設計すれば、『マイノリティリポート』のようにプロダクトとしてのリアリティが格段に増す。
『her/世界でひとつの彼女』のAI サマンサのOS インターフェイス(ウェブサイトから引用)
『her/世界でひとつの彼女』の劇中PCに表示されるソフトウェアのインターフェイスやロゴは非常に洗練されているが、これをデザインしたのは、日本で展覧会を開催したこともあるカナダ出身の著名グラフィックデザイナー、ジェフ・マクフェトリッジ。
いわゆる芸術家ではなく、商業デザインの「専門家」の作であればこそ、観客はそのインターフェイスを「その世界では当たり前に存在するもの」として、ごく自然に受け入れることができる。
消費者に高度なテクノロジを「普段使い」してほしいなら、UIにはものすごく気を遣うべきだ。実際、大手企業向けシステムに対するUIの満足度は総じて低く、逆に言えばUIが洗練されていることは導入の後押しとなる。
ただ、どんなUIが「快適」かに絶対的な正解があるわけではない。たとえば、1983年に発売され、国内で2000万台近くが売れたファミコン(ファミリーコンピュータ)のコントローラは「左側に移動のための十字キー、右側にジャンプや攻撃、あるいは決定やキャンセルを行うA・Bボタン」という配置であり、現在では世界中のどの家庭用ゲーム機も、ほぼこれに倣っている。「移動は左手、アクションは右手」。誰も不思議に思わない。ごく自然な配置だと思うだろう。
ファミコンのコントローラ
ところがファミコン以前、たとえば1977年に発売された北米のゲーム機「アタリ2600」のコントローラは、右手で方向スティックを操作し、左手でボタンを押す仕様になっていた。つまり「移動は右手、アクションは左手」。ファミコンと逆だ。
PCゲームをプレイする際、ゲーム用の専用コントローラー(パッド)が登場する前は、「キーボードのテンキーを右手で押して上下左右移動、左手でスペースキーを押下してアクション」が一般的だった。これもファミコンと逆である。
ラジコンカーを動かすスティックタイプのプロポ(コントローラー)も、そうだ。ステアリングを切る左右スティックは右手の親指で操作する。左手の親指で操作するの前後スティック。前に倒せば倒すほどスピードが上がる、つまりアクセルと同等の役割だ。しかしファミコン以降のレースゲームでは、アクセルは右手側のボタンに割り当てられているので、左右の指が担う役割はプロポと逆になる。
そもそも普通に考えれば、人間は右利きが多く、右手のほうが精密な動作ができるのだから、単純なボタン押下より精密さを必要とする「移動」を右手に割り当てたほうがいいはずだ。ところが、今では多くの日本人が「移動は左手、アクションは右手」に慣れてしまっている。おそらく、ファミコンのせいで。