今週の明言

IoT事業に注力する日立社長の利益重視経営

松岡功

2017-06-16 11:00

 本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉をいくつか取り上げ、その意味や背景などを解説している。

 今回は、日立製作所の東原敏昭 執行役社長兼CEOと、グーグルの徳生裕人 製品開発本部長の発言を紹介する。


日立製作所の東原敏昭 執行役社長兼CEO

「今の中期経営計画では売上高よりも利益の達成に注力したい」
(日立製作所 東原敏昭 執行役社長兼CEO)

 日立製作所が先頃、投資家向け事業戦略説明会を開いた。東原氏の冒頭の発言はその会見で、2016年度(2017年3月期)から2018年度(2019年3月期)までの中期経営計画における売上高と利益の考え方について述べたものである。

 会見の冒頭でスピーチした東原氏は、まず2018年度までの中期経営計画のスローガンである「社会イノベーション事業を軸にIoT(Internet of Things)時代のノベーションパートナーを目指す」ことを強調。そのキーワードとなるのが「Lumada(ルマーダ)」である。

 Lumadaとは、日立の幅広い事業領域で蓄積してきた制御・運用技術(OT:オペレーショナルテクノロジ)と、人工知能(AI)やビッグデータ収集・分析などの情報技術(IT)を組み合わせ、顧客にとって最適なソリューションを提供する製品・サービス群のことだ。同社はLumadaを「IoTプラットフォーム」と位置付けている。

 日立の全事業から見ると、Lumadaは下図のような位置付けになる。ポイントは、日立の全事業をLumada上に展開し、各事業分野の顧客と“協創”(コー・クリエーション)して新たな価値を創出していくという考え方である。


日立の全事業におけるLumadaの位置付け(出典:日立製作所の発表資料)

 こうした考え方のもと、東原氏は「日立は顧客と一緒に課題を共有し、ビジネスモデルを具現化し、運用・保守まで含めたエンド・ツー・エンドのパートナーになることを目指す」と述べた。

 一方、同氏は「日立にはまだまだ課題も多い」ともいう。具体的には、「グローバルでのセールスチャネルが足りないし、保守やサービスも強化する必要がある。さらに、イノベーションパートナーに向けて必要な人材が不足している。投資はそうした課題の解消に向けて集中的に行っていきたい」と説明した。

 そうした中で、筆者が気になったのは冒頭の発言だ。日立は中期経営計画の目標として、2016年度実績で9兆1622億円だった売上高を2018年度は10兆円に、また同じく2312億円だった当期利益を4000億円超にすることを掲げている。冒頭の発言はすなわち、10兆円よりも4000億円の達成に注力することを述べている。

 売上高10兆円というのは大きな節目である。しかも「IoT時代のイノベーションパートナーを目指す」と大々的に打ち出した限りは、まず売上高を伸ばしたいと考えがちだ。しかし、東原氏はそうではなく利益重視を強調した。売上高を追うばかりに利益を軽視しがちになるのを避けたい思いがにじみ出ている。さまざまな修羅場を経てきた日立ならではの経営判断なのだろう。

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