現在は農家の長年の経験や手作業に依存している水田の水管理で、コストを半減にすることを目的にした実証事件が開始される。実験に取り組む静岡県やインターネットイニシアティブ(IIJ)、笑農和、トゥモローズ、農業・食品産業技術総合研究機構が6月19日、発表した。
実証実験は、農林水産省の2016年度の公募事業「革新的技術開発・緊急展開事業」で、「低コストで省力的な水管理を可能とする水田センサー等の開発」の研究開発として採択されたもの。IoTやLPWA(Low Power Wide Area)などの技術を活用して水管理作業の自動化を推進し、コストの半減化を目指す。
具体的には、水田に水位と水温を測定する水田センサを設置し、センサの情報をLPWAの通信規格の1つ「LoRA」とLTEの無線ネットワーク経由で、IIJのクラウドサービスに集約する。さらに、収集した情報をアプリケーション上で分析したり、可視化したりするほか、無線ネットワーク経由で遠隔から自動給水弁を操作し、水位を調整できるようにする。
実証実験のシステムイメージ
実験は、浅羽農園(静岡県袋井市)と農健(同磐田市)が保有する天竜川流域の水田を対象に、センサを300台、自動給水弁を100台設置して行う。IIJによれば、農業分野でのIoTの実証実験は全国で行われているが、設置機器の規模としては他にあまり例が無いという。
研究コンソールで研究代表機関として参画するIIJ ネットワーク本部 IoT基盤開発部長の齋藤透氏によれば、水田の水管理に関わるコストは、稲作全体に関わる年間コストの2割程度を占める。水管理は農家の経験や勘、手作業に依存しているものの、農家の高齢化やまとまった面積の水田の管理では農家の負担が大きいことが課題になっているという。
こうしたことから実験ではIoTの活用効果を検証すると同時に、水管理に必要な機器やサービスの導入・運用コストの低廉化も目指す。機器量産時の販売価格は、センサでは1万円程度、自動給水弁では3~4万円程度が目標という。実験の成果は日本農業情報システム協会などを通じて広く提供し、業界や地域の垣根を超えた農業分野でのIoT活用の普及につなげていくとしている。
2017年度は、まずセンサや自動給水弁、LoRA基地局、アプリケーションなどの開発と試作機の製作を進めつつ、関係機関と実験内容の具体的な内容を調整する。水田への機器設置は田植えシーズンの2018年4~5月を予定し、2019年3月末までにデータの収集や分析、機器の量産化やアプリケーションの改良、地理情報システム(GIS)など他のシステムとの連携といった検討作業に取り組むという。
実験の成果はオープンなシステム仕様や標準化のためにも活用していくという