日本株展望

原発事業リスク高まる--電力株の投資判断

ZDNet Japan Staff 2017年06月20日 11時42分

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今日のポイント

  1. 東芝が反面教師となり、日立製作所は海外で展開する原発事業のリスクを縮小する方針に転じつつある
  2. 原発事業を抱える電力会社への投資は避けた方が無難。核燃料サイクル事業が実現しない場合、使用済み核燃料が資産から負債に変わるリスクがある。原発事業のリスクから解放されれば、送配電で世界屈指の技術を持つ日本の電力会社は高く評価できる

 これら2点について楽天証券経済研究所長兼チーフストラテジストの窪田真之氏の見解を紹介する。

本レポートでコメントする銘柄

日立製作所(6501)、東芝(6502)、三菱重工(7011)、東京電力HLDG(9501)、中部電力(9502)、関西電力(9503)、中国電力(9504)、北陸電力(9505)、東北電力(9506)、四国電力(9507)、九州電力(9508)、北海道電力(9509)、沖縄電力(9511)

東芝が反面教師に 日立製作所は海外原発事業のリスク見直し

 東芝は、半導体事業が絶好調だが、米国での原発関連事業で巨額の損失を計上し、債務超過に転落した。東芝の失敗を見て、同じように海外で原発事業を推進している日立製作所も、事業リスクの見直し、リスクを縮小する方向に舵を切り始めている。

 日立は、今でも、原発事業について、国内は現状維持、海外で成長するという基本方針は変えていない。ただし、東芝のような巨額の損失を計上する可能性を排除するために、海外原発事業の出資比率は下げる方針に転じている。特に、安全基準がどんどん強化されることで、原発事業のコストが高くなっていく欧米での事業展開に慎重になっている。

 日立製作所が最近発表した欧米での原発事業リスクの縮小は以下の2つである。

(1)米国のウラン濃縮技術開発事業から撤退

 米国で米ジェネラル・エレクトリック(GE)と合弁で行っていたウラン濃縮技術の開発事業(出資比率:GE60%、日立40%)から撤退することを決め、2017年3月期に約650億円(3月24日時点の見積もり)の減損損失を立てることを決めた。GEと共同でレーザーを使ってウランを効率的に濃縮する技術を開発していたが、需要が見込めなくなったと判断した。世界的に原発建設や稼動停止が続いていること、ベトナムのように原発建設方針を撤回する国も出てきていることを考慮した。

(2)英国で行う原発事業の出資比率を低下させる

 日立は、2012年に買収した100%出資会社ホライゾン・ニュークリア・パワー社を通じて、英国で2025~26年頃の稼動を目指して、原発2基を建設する計画を持っている。

 6月8日に開催した説明会で、英国政府の許可を得た上で、この事業への出資者を募り、日立の持ち分を50%未満(連結子会社から外せる保有比率)まで低下させると発表した。もし、出資者が集まらず、日立の持ち分を50%未満に下げることができない場合は、英国での原発建設のFID(最終投資決断)に進まないと明言した。

 原発事業の拡大リスクは、高まっている。建設を決めてから完工するまでに、安全基準がさらに強化されてコストが膨らむリスクや、建設が遅延して遅延損害金が膨らむリスクなどがあり得る。さらに、使用済み核燃料の処分コストや、廃炉コストも、今想定されている金額よりもはるかに大きなものになるリスクもある。原発事業の規制強化リスクは、特に、欧米で高まっている。

 こうしたさまざまなリスクを、日立が全面的に負わないで済むように、共同事業者を募るほか、英国政府や日本政府による支援を引き出すよう、交渉する方針だ。英国での原発建設は、日立・ベクテル・日揮の3社の共同事業とし、損失が発生した場合は、3社で分担する方針である。

 原発運営にかかるさまざまな追加コストまで含めて、収益が得られる見込みが明確にならない限り、FIDに進まないと、説明していた。

 日本では、日立製作所・東芝・三菱重工の3社が、原発事業を展開している。投資家から見て、原発事業は、株主価値を高める期待が小さく、株主価値を毀損するリスクの大きい事業に変わりつつあると考えている。

 東芝が反面教師となって日立製作所は、慎重な事業展開に転じている。東芝のように経営が傾くようなリスクは取らない方針に転じつつあるが、それでも、海外原発事業の拡大方針自体を取り下げたわけではないので、今後とも、原発事業のリスクについては、注意して見ていく必要がある。

原発事業を保有している電力9社に投資するのはリスクが高い

 原発事業を行ってきた電力9社(東京電力HD・関西・中部・九州・中国・四国・北陸・東北・北海道)への投資は、リスクが高いと判断される(沖縄電力は原発は非保有)。

 原子力発電を運営するコストは、安全基準の強化によって、日本でも年々高くなっている。日本ではこれまで原発が低コスト発電とみなされてきたが、高コスト発電に変わる可能性が高まっている。

 重要な影響が及ぶのが、核燃料サイクル事業【注】の成否だ。

【注】核燃料サイクル事業について

 現在、日本は、核燃料サイクルが実現することを前提に原発事業の原価を計算している。核燃料サイクルとは、使用済み核燃料を再生してMOX燃料を作り、再び原子炉で発電に使うものである。これをプルサーマル発電という。さらに、そこから得られるプルトニウムを使って、高速増殖炉で発電を行う計画だ。高速増殖炉では、使用するプルトニウムを上回る量のプルトニウムが得られ、何度も発電を繰り返すことができる、とされてきた。

 夢のような核燃料サイクルが実現することを前提としているため、日本の電力会社は、使用済核燃料を、資産として計上している(燃料の再生費用は引き当て)。使用済み核燃料はプルサーマル発電や高速増殖炉で新たに発電を行うための「資源」という扱いとなっている。

 ところが、日本の核燃料サイクル事業は、現時点でまだ何も実現していない。最近になって、核燃料サイクル事業は、安全性が確保できず、実現不可能との見方が出ている。使用済燃料から未使用のウランやプルトニウムを取り出してMOX燃料に加工する予定であった青森県六ヶ所村の再処理工場は技術上の問題が次々と出て、完成が遅れている。

 高速増殖炉の開発も進んでいない。日本では、再処理したプルトニウムで動くはずであった高速増殖炉「もんじゅ」は1995年にナトリウム漏洩事故を起こして以来、稼働が停止したまま、廃炉が決定している。欧米でも技術的な困難と経済性から、高速増殖炉の開発は断念する国が増えている。

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