Rethink Internet:インターネット再考

「公開」よりも「秘匿」のテクノロジが創造的に--次世代インターネットとブロックチェーン - (page 5)

高橋幸治

2017-06-24 07:00

 確かに日本人にとっていちいち用心深く「鍵」をかけるという行為はどこか他者への不信を感じさせるし、過剰な護身や不要な防御として映るところがあり、あまり好ましいイメージを持っていない。

 谷崎潤一郎は1956年に『鍵』という小説を発表しているが、同作は夫婦それぞれの満たされぬ性欲を綴った秘密の日記を、「鍵」をわざと目に見える場所に放置することによって意図的に盗み見させるという倒錯した心理が描かれている。

 つまり、「鍵」は秘匿していることを知らせ公開したいという欲望をほのめかすための、パラドキシカル(逆説的)な符牒としての役割を付託されているわけだ。

 こうした日本人の「鍵」に対する心性は、先述の「個人情報」や「プライバシー」に対する不可解な無関心や不思議な寛容性に一脈通じるものがあるかもしれない。


 しかし、インターネット第2四半世紀にこの観念は変容を迫られる。インターネット第1四半世紀にはデジタルテクノロジと最も疎遠な領域と思われていたファッションとスポーツが今後のデジタルクリエイティブの最前線となるように、これまでバックエンドの専門分野と考えられていたセキュリティにまつわる技術が一躍フロントエンドに浮上してくるだろう。

 今後は、これまで単に機械的、形式的、事務的なものだった認証プロセスが、デジタルクリエイティブの新たな主戦場となる。

 「ZDNet Japan」の読者であれば薄々見当はついていることとは思うが、そのけん引役はほかでもない「ブロックチェーン」である。

 このP2Pネットワークによる自律分散システムというインターネットの特質を最大限に生かしたにまったく新しい信用担保システムは、Bitcoinに特化したFintechの文脈を大きく超えて、インターネット第2四半世紀にふさわしい私たちの資産、富、財産の保守、秘匿、管理を実現していくだろう。

 いまはまだテクノロジの仕組みだけが先行して取り沙汰されている段階だが、本連載でもいずれじっくりと技術解説とは異なる角度からこの「ブロックチェーン」の可能性を考察してみたいと思う。

高橋幸治
編集者/文筆家/メディアプランナー/クリエイティブディレクター。1968年、埼玉県生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒業後、1992年、電通入社。CMプランナー/コピーライターとして活動したのち、1995年、アスキー入社。2001年から2007年までMacとクリエイティブカルチャーをテーマとした異色のPC誌「MacPower」編集長。2008年、独立。以降、「編集=情報デザイン」をコンセプトに主にデジタルメディアの編集長/クリエイティブディレクター/メディアプランナーとして企業のメディア戦略などを数多く手がける。本業のかたわら日本大学芸術学部文芸学科、横浜美術大学美術学部美術・デザイン学科にて非常勤講師もつとめる。「エディターシップの可能性」を探求するセミナー「Editors' Lounge」主宰。著書に「メディア、編集、テクノロジー」(クロスメディア・バブリッシング刊)がある。

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