スピーチの中でCustomerTechの1つとして挙げたCustomer Commonsは、オンラインでの契約時にユーザーが定めたユーザー情報の利用規約に企業側が同意することでそのユーザーの情報取得ができる、というものだ。
これは、これまでほとんどの消費者向けサービスでは取得する情報や利用目的などについて、「企業からの一方的な規約や条件に同意しないと利用できない付合契約となっていた問題」を解決する。
オープンデータのライセンスとしても使われているクリエイティブ・コモンズと同じように、自分の情報を誰に共有し、いつまで保有し、どういう目的に利用してよいかなどの条件をユーザー側が設定できる。
Customer Commonsによる試案by Mary Hodder(CC BY-SA)
これまで“テクノロジ武装”している企業に対して裸一貫で対峙せざるを得なかった生活者に、このような”装備”を与えようとする動きは多数ある。
ウェブの生みの親であるTim Berners-Lee氏が、「データを再び個人に取り戻す」とMITで取り組んでいるオープンソースプロジェクト「Solid」は、企業が提供するウェブサービス、アプリのデータ保存場所やデータへのアクセスをユーザー自身がコントロールできる。
これまで企業が集中管理していたユーザーの情報を、個人が分散管理できるようにし、ウェブを再び分散化されたプラットフォームにしようとしている。
孫泰蔵氏が「データの主権を個人に帰属させるシステムである」と期待し、自身が最高経営責任者(CEO)を務めるMistletoeが出資するPlanetwayという仕組みがある。ブロックチェーン技術などを組み合わせることで複数事業者間/業界間の分散型データ連携を可能にする「avenue-cross」を展開している。
この技術の可能性はBtoBだけにとどまらない。個人を含むデータ提供者は、誰がどのデータにアクセスするかをコントロールでき、アクセス履歴の追跡も可能のため、安心・安全なデータ流通と活用が実現できる。
日本の官主導で進められている動きもある。経産省が取り組むID連携トラストフレームワークは、これまでサービスごとに個人が属性情報登録・認証を別々に行っていたものを、個人の同意に基づき複数企業で連携し情報交換できるようになる仕組みだ。
例えば、マイナンバーカードを利用した公的個人認証と民間の認証基盤を連携することによって、引越しで住所が変更になった際に、これまでは各サービスごとに登録情報の変更をしなければならなかったのが、一括で変更できるようになる。
生活者のためのテクノロジであるCustomerTechを紹介してきた。
PDSに必要だと議論されている情報の第三者提供コントロール、トレーサビリティやデータポータビリティなどの各機能が拡張実装された上記のような生活者をエンパワーするサービスは、今後さらに出てくるだろう。
<後編に続く>
- 伊藤 直之(いとう なおゆき)
- 2008年、株式会社インテージ入社。主に消費財メーカーの社内外データ利活用基盤構築やマーケティングリサーチに従事した後、現在はデジタルマーケティング領域の新規事業開発を行う。2013年よりオープンデータを推進するOpen Knowledge Japan運営メンバー。ビジネス領域でのオープンデータやパーソナルデータなど多様なデータの公開・流通による利活用を推進することによって、より良い社会の実現を目指す。