日本の企業でも量子アニーリングの研究は進んでいる。デンソーは自動車業界での量子アニーリング研究に取り組んでいる。情報エレクトロニクス研究室 担当係長寺部雅能氏は現在、3メートル程度ある量子コンピュータを車に乗せるのは難しいが、車がコネクテッドカーになる未来を想定して、IoT向けサーバ領域で量子アニーリングを使えないかを研究しているという。
「車同士がネットワークでつながっている状態を作り、量子アニーリングで最適化ルートを計算し、渋滞を避ける道を指示すれば、車が混雑した道をさけるような運用ができるかもしれない。町から渋滞を減らすこともできる」と構想する。
さらに、デンソーではたくさんの工場を運用しているが、工場同士で連携すれば、世界全体の工場で生産を最適化するような展開も可能かもしれないと語った。

ブレインパッド A.I開発部長 太田満久氏
ブレインパッドは「巡回セールスマン問題」のセールマンの数を複数にした場合、いわば、倉庫などからの配送問題に量子アニーリングが使えるかどうかをポスター発表した。
同社はデータ分析コンサルティングを事業とし、普段から機械学習などを利用しさまざまな「最適化問題」を扱っているが、今回、量子アニーリングの理論を実際のビジネスに活用することを試みた実験の結果を発表した。
「組み合わせ最適化問題に、量子アニーリングが利用できるというのは通説だが、実際に実験してる例があまり見つからなかったので、これに取り組んだ。どのようなケースなら結果が出せるか、5~6種のモデルを作り、比較した。実際のコンサルティングで課題になっているような条件を念頭に置いた」(ブレインパッド A.I開発部長 太田満久氏)
リクルートコミュニケーションズは今回、会場を提供するなど、日本の量子アニーリング研究で存在感を示す。2015年から量子アニーリング研究をスタートし広告領域での活用を検討、D-wave Systemsとともに量子アニーリングの勉強会を実施してきた。量子アニーリングの研究を進めるなかで、AQCの2017の実行委員である西森氏と関係を構築し、会場提供を申し出たという。

TomyK代表取締役社長 鎌田富久氏
リクルートコミュニケーションズでは、量子アニーリングを利用したD-wave Systemsの量子コンピュータをすでに使っており、広告最適化のテストを実施している。アドテクノロジーサービス開発部 部長 大石壮吾氏によると、テストはもはや「最終段階」であり「運用に量子アニーリングを適用するかしないかを決めようとしている状態」という。適用が決まれば、組織編成など再検討する必要があるとした。
大石氏は今後について、日本企業の中では量子アニーリングの研究や応用について先端であると自負しているので、このまま注力すると話した。広告の分野だけでなく、他の領域でも活用が進めるようになるとおもしろいと話し、提携している早稲田大学高等研究所助教である田中宗氏らと研究を続けるとした。
量子アニーリングのビジネス面での可能性はどうか。専門家投資家で、ベンチャー動向に詳しいTomyK代表取締役社長 鎌田富久氏は、機械学習などAIは過去のデータを基にして、近似解を示すことができる点で有用だが、世の中には、解けるなら明確に答えを出したほうが、いいケースもあると指摘。「今までは難しかった最適化問題を解くことを、コンピューテーション能力でカバーできそうだという点で量子コンピュータに注目している。将来の有力な成長領域だと考えている」と話し、改めてその可能性の大きさを示していた。

会場のポスター発表の様子