宇宙×次世代ITを担う人材の獲得
宇宙産業ビジョン2030に掲げられている世界を実現していくためには、S-NETやS-Boosterを始めとした、他産業との出会いの“場”や新たなビジネスアイデアの発掘機会を提供する仕掛けが非常に重要となる。
日本国内には紹介したS-NETとS-Booster以外にも、宇宙ビジネスの相談窓口機等能を有する一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構(JSS)が進める宇宙ビジネスコートもある。
さらに次世代の人材を育成する目的を持つ慶応義塾大学や東京大学、青山学院大学などが共同で実施しているGESTISS、その人材育成プログラムであるG-SPACEなど、多種多様なサポート機能が充実しつつある。
今後これらの支援機能がさらに発展し、日本の宇宙ビジネスを支えていくと期待したい。
一方で今後の課題は、宇宙×次世代ITや、宇宙×他産業を実現させ宇宙ビジネスの幅を広げられる人材の獲得になると考えている。
これまで宇宙ビジネスの分野は航空宇宙工学などをバックグラウンドに持つ人材が中心であった。しかし今後の宇宙ビジネスの発展にはデータ分析、経済学・金融工学などの経営知識、法律などの専門知識を持つ人材など、多種多様な人材の獲得が重要となる。
例えば今後の宇宙ビジネスを発展させる上で重要となるIT人材については、国内において現状で約17万人不足しているとされており、2020年には約37万人、2030年には約79万人不足すると考えられている*。
IT人材は宇宙分野だけでなくさまざまな産業においても不可欠な存在であり、他産業との人材獲得競争に勝つことが重要になる。今回記載した他産業を巻き込む各種取組みの中で、宇宙ビジネスの存在感を高めていき、新たなビジネスを興すに魅力的なフィールドであると認知される必要がある。
*経済産業省「IT 人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」より
※経済産業省産業構造審議会新産業構造部会
主要国におけるデータ分析を受けた大卒生の人数比較 第5回参考資料「これから求められる人材について」より編集
また人材の流動性を高めるのも重要だ。日本は海外と比べて人材の流動性が低いと常々指摘されている。この点に関しては宇宙ビジネスを発展させるうえでも同様の課題がある。これまで日本の宇宙産業界は、JAXAや大学、大手企業を中心に構成されてきた。
しかし、欧米では大手IT企業から宇宙ベンチャーに転職する人材、大手コンサルティングファームやベンチャーキャピタルなどから宇宙ベンチャーへ転職する人材(経営学修士を取得している人材も多い)、NASAやESAなどで研究を行ってきた人物がベンチャー企業に籍を移す例は数多く存在する。
ただし日本においても近年活躍している宇宙ベンチャーの中には、大学などで教授を務めている人物を企業内に招いているケースも存在する。
例えば民間月面探査レース「Google Lunar XPRIZE」に参画するチーム「HAKUTO」を運営しているispaceは、東北大学の吉田教授がDirector兼最高技術責任者(CTO)を務めている。また増加する人工衛星に対応する地上の通信インフラを提供するInfostellarは東京大学 中須賀教授が顧問として就任している。
この様にこれまで巻き込めていなかったIT人材や高い技術的知見を有する研究者を、宇宙ビジネスに積極的に巻き込み、多様なビジネス創出することが重要である。
今回紹介したS-NETやS-Booster2017の取り組みは、正しくこれらの課題を解決するために非常に重要なプラットフォームであり、国内の宇宙ビジネスをさらに発展させていく起爆剤となると期待している。
- 八亀彰吾 株式会社野村総合研究所 副主任コンサルタント
- 宇宙産業を中心とした各種産業政策、産学官連携・産業クラスター政策から民間 企業の事業戦略等の幅広いコンサルティング事業に従事。 東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻修了。 大学院ではJAXA宇宙科学研究所にて小惑星や隕石等の太陽系物質科学の研究に従事。