企業セキュリティの歩き方

セキュリティ対策の不都合な真実--日本で海外製品が売れ続ける構図 - (page 4)

武田一城

2017-07-04 06:00

新たな脅威で普及する新製品

 筆者は、過去にこうした日本のセキュリティ製品市場の構造に深く関与していた。ファイアウォールが普及し始めた約10~20年前、サイバー攻撃や情報漏えいのリスクが拡大し、次の対策が必要とされた時期でもあり、筆者はその対策を担う新製品のマーケティング戦略の立案と実行を担当していた。

 戦略は非常に簡潔で、「高機能な新製品でセキュリティを高める」ために、製品やサービスを普及させるという一点だ。その結果、セキュリティ対策市場で新しい分野を築き、その代名詞となった製品もあった。

 しかし、その製品で最も特徴的な「脅威の可視化」機能は、普及から数年が経つ現在でもあまり使われていない。製品で脅威を可視化しても、対処する人が非常に少ない日本市場では機能しなかったというのがその原因だ。それでも、製品自体の出来が良かったことと標的型攻撃の脅威がメディアをにぎわせたこともあって、新たな対策を欲していたこの市場に瞬く間に受け入れられてしまった。

 まとめると、サイバー攻撃がますます巧妙化する中で、ファイアウォールやアンチウイルスソフトのような従来の対策製品が「壁」として機能する時代は終わり、高機能な「新しい壁」が次々に導入されたが、その壁は残念ながら機能していない。ユーザー企業と既存ベンダーの密な関係による日本特有の市場構造にセキュリティ対策製品も組み込まれ、現在の姿になった。

 そして、日本市場の先にはシリコンバレーを頂点とする世界のセキュリティ製品市場の構造が存在している。ユーザー企業がセキュリティ対策製品を導入する場合にも、実はこのような大きなお金を生むスキームが影で動いているのだ。ユーザー企業が将来のセキュリティ対策を見据える上では、こうした日本と世界との関係性を理解し、「その製品で本当にうちのセキュリティが高まるのか?」という視点を重視すべきだ。間違っても、免罪符にすることを目的としたセキュリティ対策にしてはならない。

武田 一城(たけだ かずしろ)
株式会社ラック
1974年生まれ。システムプラットフォーム、セキュリティ分野の業界構造や仕組みに詳しいマーケティングのスペシャリスト。次世代型ファイアウォールほか、数多くの新事業の立ち上げを経験している。ウェブ、雑誌ほかの媒体への執筆実績も多数あり。NPO法人日本PostgreSQLユーザ会理事。日本ネットワークセキュリティ協会(JNSA)のワーキンググループや情報処理推進機構(IPA)の委員会活動、各種シンポジウムや研究会、勉強会での講演なども精力的に活動している。

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