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ウォーターフォール型が多い日本市場への対応--開発ツールスイートのインフラジスティクス

阿久津良和

2017-07-06 08:37

 インフラジスティックス・ジャパンは、デスクトップやモバイルアプリケーション、ウェブ開発におけるUIコントロールの開発ツールスイート「Infragistics Ultimate 2017 Vol.1 日本語版」を6月27日から提供している。

 米国でタクシー業界が変化したように、さまざまなアプリケーションをAPIを通じて組み合わせ、すばやく新たなビジネス領域を構築するビジネスモデル「アプリケーションエコノミー」を、大きな成長分野と捉えている。


Xamarin向けビジュアルプログラミング環境「AppMap」。「Infragistics Ultimate 2017 Vol.1 日本語版」に含まれる

 世界中で40億台のスマートフォンが使用され、その上で飛び交うデータ量は年間55%の割合で増加中だ。その市場規模も2016年時点で1300億ドルにおよび、今後は2000億ドル規模まで成長するとの見方もある。さらに、アプリケーションエコノミーに関する人材も、米国では170万人、日本国内でも60万人の雇用を生み出した。

 デジタルネイティブ世代が市場をけん引するアプリケーションエコノミーにおける戦略について、Infragisticsのシニアバイスプレジデント、 Developer ToolsのJason Beres氏と、インフラジスティックス・ジャパン シニアUXアーキテクト/代表取締役の東賢氏に聞いた。

--UIコントロール市場で好調な理由は?


Infragistics Senior Vioce President, Developer Tools Jason Beres氏

 Beres氏 いくつか理由があります。1つは、われわれが30年以上の歴史を持つ企業であることです。長期にわたって弊社製品を使う顧客からは、パフォーマンスの高いUIコントロールを提供していると評価をもらってきました。もう1つはサポートです。日本の顧客は手厚いサポートと高い品質を求めますが、われわれの姿勢と相まって日本市場でも成功を収めました。長きにわたりMicrosoftとパートナーシップを続けてきたことも理由の1つです。

 Visual Studioのパートナープログラム設立当初から協力体制にあるので、約20年の月日を数えます。常に新しい開発ツールを支援しているため、それはMicrosoft側とわれわれの顧客に対する価値につながります。

--2006年に設立した日本法人の進捗は?


インフラジスティックス・ジャパン シニアUXアーキテクト/代表取締役 東賢氏

 東氏 私が代表に就任したのは2011年ですが、2006年の設立から堅調なビジネスを進めています。設立前から技術トレンドが加速していました。当時はiPhoneも発売されていませんが、モダンウェブに対する需要は高まり、2011年ともなればモバイル需要やクロスプラットフォーム、クロスUIプラットフォームの需要もあふれかえる状態です。

 そのような背景で私が目にしてきたのは、顧客の迷いでした。開発者は「ウェブに向かうべきか? デスクトップアプリケーションにとどまるべきか?」と安定する技術を吟味し、難しいタイミングだったように記憶しています。われわれは開発者視点に立ち、自社製品の活用方法を明示することに注力しました。これが弊社の特徴であるサポートの部分です。

 特に日本法人ではサポートを最も重視しました。質問の裏側にある顧客の意図をくみ取り、対応を重ねることで、サポート体制を評価してもらえるようになりました。サポートはメールやウェブベースの基本的なものから、有償の電話対応、トレーニングや相談にも対応しています。

--ライセンス形態も柔軟に対応する?

 東氏 ライセンスに関しては柔軟な考え方を持っています。大手企業から製品サポート期間を長くしてほしいといった要望がある場合、カスタマイズしたライセンスを契約に適用します。ただし、10年など長期間のライセンスは現実的ではありません。例えばウェブブラウザが同じ環境を維持することは少ないでしょう。

 しかし、3年や5年といった短い期間であれば、更新しやすい期間を作れます。その結果、大口契約も増え、順調に売り上げも伸びました。

--日本市場における注力分野は?

 東氏 海外ですと金融業界のように多くのデータを扱う企業が顧客に名を連ねますが、日本市場はパッケージを作られるISV(独立系ソフトウェアベンダー)さんがたくさんいます。彼らは長期間アプリケーションのメンテナンスを行いますが、皆さん共通の課題を抱えていました。

 例えば「UIが少し古くなった」「パフォーマンスに限界が見えている」といった部分を支援することで、課題解決につながります。そのため弊社としてはISV向け支援の注力を続けていきます。

--日本市場の課題は?

 東氏 開発プロセスがウォーターフォール型で長期化しやすいことでしょうか。顧客の需要を素早く対応する体制やUIテスト方法などを、弊社製品でモダン化することで解決すると考えています。弊社社員にはMVVM(Model View ViewModel)フレームワークであるPrism(以前はMicrosoft製ライブラリ。現在はオープンソース化)のオーナーがおります。

 例えば顧客がWPF(Windows Presentation Foundation)やXamarinでアプリケーションを作りたい場合、Prismを使った開発方法を提示し、効率性の高い開発方法を紹介するような、開発プロセスレベルの相談にも対応できます。

--グローバルでアプリケーションエコノミーに積極的なのは?

 Beres氏 ソフトウェア開発が盛んな欧州が最初に浮かびます。アジアで言えばスマートフォンやIoTデバイスの開発を行うSamsungや富士通、NECなどが顕著でしょう。その結果がアプリケーションエコノミーを加速させています。ただ、1番は米国のシリコンバレーでしょう。アプリケーションエコノミーの活用と投資を行っています。

--アプリケーションエコノミーの現状は?

 Beres氏 アプリケーションエコノミーの拡大にあたって重要なのは消費です。例えばアジアやアフリカの新興国は、(PCではなく)モバイルデバイスしか使わない消費者がたくさんいます。この消費活動を欧州や日本、米国の企業がモバイル体験を高める技術革新で回してします。

 東氏 われわれは日本市場以外にもアジア太平洋地域(APAC)も担当していますが、シンガポールやマレーシア、香港からの問い合わせもモバイル系が増えています。既にAPACはモバイルデバイスが最大のプラットフォームという印象を受けました。われわれはPC上でアプリケーションを活用して業務を遂行しますが、彼らはモバイルデバイスしかないのです。

--アプリケーションエコノミーにおける御社の役割と強みは?

 Beres氏 最先端技術という観点から、われわれは顧客の一歩先にいるように努力してきました。顧客がモバイルデバイスに投資したいと考えた時、われわれはすべてに対応するツールもプラットフォームも用意しているため、顧客は既存アプリケーションをモバイル化する際も、サブセットの追加やUI/UX(ユーザー体験)を修正することで実現できます。

 東氏 繰り返しになりますが、技術に精通した社員は大きな強みになります。Prismのオーナー以外にも、(例年開催するモバイルアプリケーション開発者会議の)Xamarin Evolveに登壇するスピーカーや、(JavaScript製オープンソース フロントエンドウェブアプリケーションフレームワークの)Angularでも同様のレベルにいる人間が社内にいることで、プラットフォーム選択が課題となる顧客に対しても適切な回答が可能です。

--アプリケーションエコノミーにおける日本企業の障害は?

 東氏 Jasonの説明と重複しますが開発プロセスが大きな障害になっています。例えばウォーターフォール型では、モバイルアプリケーションの更新や、iOS/Androidの新機能に追従できません。やり方を根底から変えることができない限り、モバイルに移行できない事情が(日本企業に)あるのではないでしょうか。DevOpsが進まない話にも通じます。われわれはUIに特化していますが、顧客には開発プロセス全体のお話をするように心掛けてきました。

--DevOpsは日本市場に浸透しない?

 Beres氏 例えば、売り上げが落ちるなど重要なマイナス要因が発生しないと人は変わろうとしません。インドや米国や欧州のパートナーはDevOpsに対して急速な変化を遂げました。日本でも最先端企業であればDevOpsに能動的で、一部の組織はアジャイル型を取り入れようとしていますが、日本の文化としてアジャイル型に馴染めないのではないかと思います。

 その理由として日本人は品質を最優先し、日本の顧客から「これで十分だ」という声は上がってきません。逆に米国や欧州では一定レベルで満足します。個人的には楽観視していますが、文化的な変化が必要なため時間はかかるでしょう。

--インフラジスティックス・ジャパンの今後は?

 東氏 サポート体制や技術者の確保、大口顧客の獲得と通じて二けた成長を目指します。

 

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