中国における老人のスマートフォン利用者は増えているように思う。例えば地下鉄やバスの車内、ないしは駅・停留所でスマートフォンに見入る老人、また観光地などでスマートフォンで写真を撮る老人、撮った写真を見る老人、家でテキストニュースや動画ニュースを見る老人を見るようになった。
中国のインターネット普及率は半数超ではあるが、中国ならではの特徴として、「都市部が農村部より圧倒的に多い」というほかにも「45歳までの利用に集中している」ということが挙げられる。
後者については、中国の社会環境が激変したという理由に加え、彼らが若いときに経験した文化大革命の影響で学習習慣が身につかなかったという理由がある。CNNIC(China Internet Network Information Center)の年2回の定例調査によると、45歳以上のインターネット利用率は低い上に、インターネットをとにかくやりたくないという層が一定数いることから、老人の誰も彼もが利用するということはなさそうだ。
とはいえ携帯電話は今の時代、いくらハイテク音痴でも連絡手段として所有する必要がある。そこで数年前からはシンプルさを追求した「老年手机(老人ケータイ)」というジャンルが誕生し、新製品がさまざまなメーカーからリリースされた。
最初は電卓のようなデザインのフィーチャーフォンだったが、最近では電卓のようなボタンを配備しつつ、Androidを搭載した製品もリリースされた。前者はそれなりにヒットしたように見えたが、近年リリースされるAndroid搭載の老人向けスマートフォンは、CPU、ROM、RAM、モニターサイズ、カメラとセンサどれをとってもスペックが低く、実用的でないものばかりだ。こうしたことから、売れ筋は老人向けスマートフォンよりははるかにスペックがマシな、例えば小米(Xiaomi)のエントリモデル「紅米(Red mi)」のようなスマートフォン入門機となっている。
スマートフォンの使い道については、老人のスマートフォンの利用についての調査がないことから、複数のウェブサイトと筆者の見聞になるのだが、懐中電灯、電卓、インスタントメッセンジャの「微信(WeChat)」と「QQ」、動画ニュース、テキストニュース、ラジオ、医療健康情報などといったアプリが人気なようだ。中国の都市で見られる「広場舞」と呼ばれるダンスの動画が見られるアプリも入っていれば喜んで使われるという。
ここで悩ましいのは、中国の老人は息子娘などの若い家族から学ぶことが多いということだ。「老年大学」と呼ばれる老人向け学校でスマートフォンを学ぶクラスも存在するし、老人同士でノウハウを伝え合うこともあるにはあるが、やはり若い世代から学ぶことが最も多い。
老人の間でアプリやハードウェアが普及しない理由として、中国のインターネットが若者のためのインターネットになる傾向であることが挙げられる。国慶節や春節の帰省シーズンに彼らの息子娘が彼らなりの考えでスマートフォンを購入し、定番アプリを導入する。
彼らが望む広場舞が入らないこともある。ウェブデザインも若者向けだ。過去にもフォントが小さく文字を詰め込む中国式のPC向け大手ポータルサイトが、老人向けにフォントが大きくシンプルなサイトを立ち上げたものの、間もなく終了してしまったことがある。いくら老人向けにピンポイントのウェブサービスを作っても、これまで中国でヒットした試しがないのだ。