そんななか、宇宙ビジネスに血道を上げている2人の世界的起業家の名を知らぬ者はいないだろう。Amazon.com共同創設者のJeff Bezosと、PayPalやTeslaなどの立役者であるElon Muskだ。BezosはBlue Originを立ち上げて有人宇宙飛行事業を、MuskはSpaceXを立ち上げて商業軌道輸送サービスや宇宙移民構想の実現に尽力している。
2人とも、既存事業で得た莫大な利益を惜しげもなく、半端ない額で宇宙関連ビジネスに投資している。無論、そこに大きな商機があると、この天才起業家たちが判断したからだし、背景にあるICT(情報通信)産業の急速な発展も大きな追い風であるのは確かだろう。
実際、2000年以降の宇宙ベンチャーに対する投資額は133億ドルだが、その3分の2は直近5年間に集中しているという。
宇宙ビジネスを実現できるだけの技術発展と、そこに投資できるだけの資金調達が、ここ数年で達成された。しかし、人類が宇宙に新天地を見出すようになった基本要件は本当にその2つだけだろうか。
米国アポロ計画の中心人物にしてロケット技術開発の天才von Braun
イタリアの商人Christopher Columbus(諸説あり)が命を賭けて新大陸到達に血道を上げたのは、航海技術・造船技術の向上とスポンサー(スペインのイザベル女王)の確保に成功したことだけが理由ではあるまい。Columbusにはもっと別の、名誉欲や金銭欲などはるかに超えた、狂気にも近い本能的な情動があったのではないだろうか。そうでなければ、資金調達に8年近くもかかって貧乏生活を送ったり、ベテラン船乗りたちから狂人扱いされる屈辱には耐えられなかったはずだ。
この種の狂気とは、メーターを振り切った知的好奇心の最終形態なのか。神的な使命感のようなものなのか。それはもしかすると、米国アポロ計画の中心人物にしてロケット技術開発の天才、Wernher von Braunが、「いつか人類を月に送る」夢のため、ドイツ時代にナチスのミサイル開発を指揮した「狂気」とも近いのかもしれない。ついでに言うなら、当のColumbusにしたって、当時の新大陸(北米)の住人側からすれば、狂気の侵略者・大量虐殺者・奴隷商人である。
「狂気」と言えば聞こえは悪い。が、その発祥において善悪はおそらく分化していない。ここで筆者が個人的に思い出すのが、映画版クレヨンしんちゃんシリーズ屈指の名編と名高い『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』(01)のワンシーンである。