サイロ化したシステムによる「情報問題」を乗り越える--JR西日本の現場改革

渡邉利和

2017-07-24 09:00

 ヴイエムウェアは7月18日、「EUC」(End User Computing)による働き方改革を中核テーマに据えたプライベートイベント「VMware Conference 2017 Summer」を開催した。キーメッセージとして打ち出されたのは「Empower Digital Workspace 新たな働き方を実現し、デジタルトランスフォーメーションを加速」というもの。この具体例として、西日本旅客鉄道鉄道(JR西日本)の取り組みが紹介された。


西日本旅客鉄道 IT本部 企画・戦略担当課長の小山秀一氏

 ゼネラルセッションに登壇したJR西日本 IT本部 企画・戦略 担当課長の小山秀一氏は、2万9152人の従業員のうち、8割超の2万5000人が現場での作業に従事し、さらに社内業務に使われているデバイス数が全従業員数を越える3万台に達していると明かした。

 この数字だけを見れば、多数のデバイスを活用して効率的に業務を遂行しているのかと思いがちだが、実態は異なるという。

 これまでに導入されてきたデバイスは、特定の業務やサービスのために用意された、いわば「専用のアプライアンス」だという。業務やサービスごとにサイロ化されたシステムが構築され、それぞれに専用のデバイスが用意された結果、デバイスの数が膨れ上がり、効果的に活用されているとは言い難い状況だという。小山氏は、「デバイスをコスト効率よく活用していくことが大きなテーマだった」と振り返った。

 また、従来の業務システムの課題として小山氏からは、乗客のような一般の人からすればと呆気にとられてしまいそうな現状も語られた。

 それは、従来は車掌などの乗務員がリアルタイムに情報を取得する手段がなく、何らかのトラブルなどで運行遅延などが発生したとしても、車掌は駅のホームなどに設置された電光掲示板などで確認するしかなかったというものだ。

 つまり現場の担当者は、乗客向けに提供される情報しか状況を知る術がなく、乗客と同じレベルの内容を、乗客と同じタイミングでしか入手できなかった。事故などでダイヤが大幅に乱れるような状況では、ホームの駅員にいらだちをぶつける乗客が現れるが、こんな状況では「どうなってんだ」などと詰問されたところで、現場の駅員にはどうにもしようがない。

 そこでJR西日本は、まずタブレットの活用に乗り出した。車掌をはじめとする現場の従業員が最新情報をリアルタイムに取得できる体制を構築したという。ここでは、従来のサイロ型のシステム構築を繰り返さないための対策が課題になり、そのためにVMwareの統合エンドポイント管理プラットフォーム「AirWatch」を導入した。

 AirWatchは、ユーザーがこれを共通基盤として、デバイスへの情報提供を一元化し、それぞれ独立に構築されている業務システムからの情報を集約することで、単一のタブレット端末をさまざまな業務のために活用できる基盤が構築できる。現時点で同社の全てのシステムが新しくなったわけではなく、段階的に更新を続けているが、最新情報を踏まえた、きめ細かな乗客対応が可能になるなど、既に大きな成果が得られているようだ。

左は以前のサイロ化されたシステムのイメージ。右はAirWatchを共通プラットフォームとして再構築した後のシステムイメージ''
左は以前のサイロ化されたシステムのイメージ。右はAirWatchを共通プラットフォームとして再構築した後のシステムイメージ

 鉄道会社の場合、乗務員や駅員など、現場での業務に従事している人数が多く、大半の社員がPCに向かっているようなオフィスの様相とは大きく異なる。また、安全確保が最優先であり、トラブルが人命に関わりかねないことから、新しいシステムの導入に際しても慎重な対応が求められることは容易に想像できる。

 とはいえ、こうした環境においても実運用を支えられるレベルにまで成熟したソリューションがそろい、ITによる「働き方改革」が単なる理想論的なかけ声ではなく、現実的なソリューションとして導入可能なレベルにあると感じられる事例だろう。

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