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「ライバルは紙」--米DocuSign会長が提案する新たなペーパーレス - (page 3)

吉澤亨史

2017-08-10 11:35

ZDNet グローバル、日本における競合はどこですか。

Krach氏: 「紙」です。DocuSignは他社製品に比べて信頼性が高く、他の製品との統合性にも優れており、グローバル対応でも抜きん出ていると自負しています。その点で「Global Trust Network」はすでに要求に応えられるスタンダードになっていますから、競争相手はすでに「紙だけ」と言えると思います。

 だからこそ、大手のソフトウェア会社がDocuSignに出資し、実際の業務で利用し、自社製品との統合を進め、またSAPには販売もしてもらっています。日本郵便では、提案はいろいろあるが、全国展開しているのでグローバルスタンダードでなければ、なかなかイエスという返事ができないとおっしゃっていました。これは他の省庁などでも同様でした。

ZDNet: 特に文教のエリアではなかなかペーパーレス化が難しいという話を聞きますが、教育機関などでの反応はいかがでしたか?

Krach氏: 大学などの教育機関ではさまざまなユースケースがあります。若い人はスマホが主流ですから、ペーパーレス化されれば手続きが早くなりますよね。私には5人の子供がいるのですが、小学校などでは今、遠足の際に保護者の同意確認書にサインを書く必要があります。もし子供がこの紙を家に忘れてしまうと、せっかくの遠足なのに動物園にも入れません。

 こういうところもペーパーレスになれば、保護者のサインも先生が動物園で確認できるようになると期待しています。まだまだオポチュニティはあると思います。

ZDNet: これまでペーパーレス化の導入について懐疑的な会社は、どのような理由があったのでしょうか。

Krach氏: 一番の理由は「変化が怖い」ことだと感じています。これまではハンコを押して書類を回していたわけですから。まさにそういう感情こそが、私たちがクリアしなければいけない一番困難な課題だと考えています。ただし、e-ハンコの登場で少しずつ状況は変わっています。そして、NTTやT-Mobileのような成功事例をお見せしていくことで、次第に恐怖心が薄れていくと期待しています。それが私たちの戦略です。

 大手の企業はもちろん、シリコンバレーにもディストラクター(破壊者)と呼ばれるところがあります。大手が成功させたビジネスを改善し、スピードで競おうという会社です。AmazonやUberなどですね。そういった会社は、彼らのビジネスをDocuSignのプラットフォーム上で展開することで、スピードを担保しようとしています。

 そこで私たちは現在、不動産業に着目しています。不動産業はペーパーワークがたくさんありますから、それを早く処理できるようになれば法律に関わる弁護士たちや、それこそご家族一人一人にも大きな価値を提供できると考えたのです。

 そこが米国での展開のカギになるのではないかと考えました。全米不動産協会の傘下には100万ものエージェント、店舗がありますが、そこではCEOによる「DocuSign標準化宣言」以来、9割以上の賃貸・売買契約で使われるようになっております。普及が進んだことで、DocuSignを使っていないと「なぜ使わないのだ」と言われることもあるそうです。

小枝氏: これは私もよく聞きます。私が米国に入国するときも、イミグレーションでどの会社に勤めているのか、何しに来たのかと聞かれます。そこで「DocuSignです」と言うと、その係の人が「I love DocuSign.」と言うんですね。Uberに乗っていても運転手に「I love DocuSign.」と言われますし、サンフランシスコのホテルでニューヨークから来ていたビジネスマンと話をしていたら、彼も使っていて「I love DocuSign.」と言われました。

ZDNet: 最後に、5年後のビジョンを教えてください。DocuSignのことでも結構ですし、業界のことでも結構です。

Krach氏: ぜひ実現したいと思っているのが、ペーパーレスオフィス、未来のオフィスの完成です。すでに、アマゾンのジャングルで伐採された樹木のうち約1/10は私たちの力で保護できたのではないかと思っていますし、水や燃料などの節約にも役立っていると思います。

 DocuSign Global Trust Networkを広めて、より早く、より軋轢のない、よりセキュアなEコマースを実現したいと思います。20年前、私が創業したAribaは今1.3兆ドルぐらいの規模に成長しています。これはAmazon、ebay、アリババよりもずっと大きいのですが、DocuSign Global Trust Networkはそれよりも大きな取引額になると思っています。もちろん、日本での取り組みも含めて人と人とのそれぞれの体験・経験、ライフスタイルといったものをよりよくしたいと考えています。

小枝氏: キースがグローバルで持っているビジョンを、日本でどうやって実現するかということになります。この市場は、世界では2020年までに30兆円規模になり、日本にはその10%以上のサイズがあると言われています。それだけ紙が多いということですね。もっといえば収入印紙が契約行為だけにかかってくる。これはものすごく大きなマーケットです。

 一方で、日本は豊洲問題や、働き方によるいろいろな重大ニュース、人の命にも関わるようなニュース、残業だったらタイムカードなど、本当に国が動き始めています。また雑誌では、世界第3位のGDP(国内総生産)の日本、生産性は最下位だと書かれてしまいます。これは、2020年のオリンピックに向けて日本が動き始めていいタイミングだと思います。

 保守的でいろいろなリスクを考えてしまう国ではありまが、一度決めさえすれば全員がすごいスピードで動く国でもあります。それが日本です。ですから日本に、DocuSignが世界で変えてきた本当のペーパーレス、本当のワークライフバランスを根付かせることができたら、大きな貢献ができるのではないかと思います。そのために、日本企業が世界と戦えるプラットフォームを作ること。これが5年後のビジョンになると思います。

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