--研究者自身は、ビジネスで結果を出すことへの関心を持っているのでしょうか。
ベンチャー教育の「東京大学アントレプレナー道場」を開講した2005年時点では、ベンチャーやビジネスに批判的な目線もありましたが、今は変わりました。
こういう教育プログラムに対する否定論は大きなものではないですし、むしろアントレプレナーシップ教育はたいへん重要だとの認識がなされています。
私が仕えた4人の歴代総長からは常にサポートされてきましたし、安倍政権になってベンチャー企業を内閣総理大臣自らが顕彰する「日本ベンチャー大賞」などが創設されるなど、文部科学省や経済産業省もベンチャー育成に積極的です。世の中の変化はわれわれにとって追い風になっています。
また、国からの研究開発のための「競争的資金」に、エグジットが求められるようになったことも研究者の意識に影響しています。
エグジットを考えることが、ベンチャーをポジティブに捉えるという意識を研究者に与えているのでしょう。それをわれわれがいかにサポートできるかが問われています。
われわれのようなベンチャーを支援する立場にあるものが、大学研究者からの信頼を得たうえで、「ノーベル賞を取る研究論文を書く際に必要な研究データと、ビジネスをするために必要な事業化のためのデータは違う」と、説明できることが重要です。
そのためには大学発ベンチャー企業では、大学とは違う研究開発をするのだと、研究者に理解してもらわなければなりません。
もちろん「論文を発表して、研究成果を広く社会に発表・共有することが、研究者としての見識だ」という人に対して、「論文発表の前にまずは特許を取ってください」と強制することは一切ありません。
研究者の意に反して論文発表を止めるような行為は行き過ぎと思います。ただ、もし研究者が成果を社会に広めたいのであれば、「知的財産として権利化した方が希望に叶うかもしれない」場合があると理解してもらうことも、大事な責務と考えます。
研究者にもアントレプレナーシップが必要だというのは、自分の研究成果を社会のために役立てたいという思いと、そのためには困難があっても決して折れないという意志が強いことが重要という意味です。
東京大学ではだいぶこのベンチャーマインドが醸成されてきており、そのことが東京大学のベンチャー創出数が圧倒的に他の大学よりも多くなっていることにつながっているのかもしれません。
<経済産業省が調査した大学発ベンチャー企業数ランキング(画像は各務教授 提供)>