AWSの人工知能戦略--FM放送での導入事例も

渡邉利和

2017-08-01 07:00

 アマゾン ウェブ サービス(AWS)は7月31日、同社の人工知能(AI)分野への取り組みに関する説明会を開催した。同社のサービスを利用して新たなサービスを実現している国内企業の事例がデモを交えて紹介された。

アマゾン
アマゾン ウェブ サービス ジャパン 技術統括本部長 技術統括責任者の岡嵜禎氏

 まず技術統括本部部長 技術統括責任者の岡嵜禎氏が、同社のAIへの取り組みを紹介した。同氏によれば、AWSでのAIへの取り組みは、ウェブサイトを訪問したユーザーに対してお勧めの商品を提示するレコメンデーション機能を実現すべく、AWS社内で使うための技術として研究開発が始まり、その後AWSユーザーの要望に応える形でサービス化されたものだと話した。

 現在のAWSのAI関連の機能/サービスは、4つのレイヤごとに豊富なメニューをそろえている。最上位レイヤに位置づけられる「AI Services」では、ユーザーはあらかじめAWSが学習を済ませて提供する機能をマネージドサービスとして利用するモデルとなる。

 機械学習では、システムに大量のデータを与えて学習させてモデルを生成するプロセス、特定のデータを生成されたモデルに与えることで何らかの推論を導くプロセスの、大きく2段階がある。モデルの生成はいわば下準備であり、特定データに対応する“推論”を得ることが目的となる。そこで、下準備の部分はAWSに任せ、望む結果だけを即受け取れる形のサービスとして提供されるのが「AI Services」だと言える。このレイヤでは大きく「Amazon Rekognition(画像解析)」「Amazon Polly(自動音声合成」「Amazon Lex(音声/テキスト・チャットボット)」の3つのサービスが提供されており、それぞれデモを交えて紹介された。

AWSが4つのレイヤで提供する機械学習関連サービス''
AWSが4つのレイヤで提供する機械学習関連サービス

 まずAmazon Pollyの国内初の活用事例として紹介されたのが、エフエム和歌山(和歌山市)が放送しているコミュニティFM「Banana FM」のサービスだ。Amazon Pollyは、テキスト読み上げを行う、いわゆるスピーチエンジンだ。この場合、入力として与えられたテキストに対して、最も自然であろうと推論される音声データを返すために機械学習で得られたモデルが使われている、という形だ。

 デモで流れた音声は、機械合成された自動音声に良くある、抑揚が乏しくちょっとたどたどしい感じの、良くあるもの、という印象だったが、何を言っているか分からないということはない。採用の動機となったのは、災害時の緊急放送など、アナウンサーが放送局にいない状況で急遽放送したい場合に迅速に対応するといった状況で、人間のアナウンサーを置き換えることが想定されているわけではない。このため、既に実用上は十分なレベルだと判断されたのだろう。

 またAmazon Rekognitionの事例として、幼稚園や保育園を中心に全国no 5000団体に写真販売サービスを提供する千の「はいチーズ!」が紹介された。運動会や学芸会といった行事にプロのカメラマンを派遣して写真を撮影し、販売するというサービスだが、参加する子供全員を対象に、それぞれが主役のカットを撮影する都合上、総撮影点数が膨大になるため、購入時にユーザーが自分の子供が写っているカットを選ぶのが大変、というのが導入の背景だ。

 ユーザーが写真を選ぶ際に、まず自分の子供の写真を登録し、画像検索を行うと、登録した写真から人物の特徴を抽出し、同一人物が写っていると思われるカットを抽出する。千では、Amazon Rekognitionの採用の理由として「精度、コスト、スピード感の面で魅力的だった」としている。

 AWSでは、これらのサービスに加え、ユーザー自身が学習を行うためのプラットフォームサービスや、独自のエンジンを自由に使いこなすためのフレームワークサービス、機械学習を高速処理するためのGPUや最新プロセッサを提供するインフラストラクチャサービスなど、各レイヤで包括的なサービスを提供している。

 さらに、ストレージサービス「S3」やサーバレスの開発環境「Lambdaなどと組み合わせることでアプリケーションやサービスを容易に実装できる環境をそろえている点も強みだとした。クラウド時代ならではスピード感で、AIを活用したサービスを迅速に実現したいユーザー企業にとっては魅力的な環境と言えそうだ。

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