ITは「ひみつ道具」の夢を見る

人間をデザインせよ--ITとゲノム編集 - (page 3)

稲田豊史

2017-08-19 07:00

 遺伝情報の完璧な解析によって、人間の先天的スペックが心身ともにすべて第三者に把握されるとなれば、「遺伝子の価値」と「人間の価値」が限りなくイコールで結ばれかねない。生まれた瞬間に「身体能力の伸びしろがなさそう」と判断された人間はスポーツが「無駄」とされ、運動部の入部を拒否されるかもしれない。逆に「学習能力は平均以下どまり」と判断されれば、「高等教育など意味がないから、早く就職せよ」という生徒指導がなされるかもしれない。

 その就職活動では、将来重大な病気にかかって業務を滞らせる“可能性のある”人間や、精神疾患に“なりそう”な人間が、容赦なくふるい落とされるだろう。同じ調査が結婚相手に行われることも、容易に想像がつく。

 「犯罪者になりそうな気質や反社会的行動を取りそうな気質は、△%の確率で遺伝形質となりうる」などという学説が流布しようものなら、大変だ。血縁者に犯罪者がいる人間は、生を受けた瞬間に公安の監視対象となりかねない。遺伝子情報が一度でも公的機関に登録されようものなら、信販会社のブラックリストのごとく、一生「危険人物」としてトレースされるだろう。


ゴルゴ13 (104) Amazonから引用

 遺伝子は人間ひとりに対して完全にユニーク、唯一無二なので、血液一滴、爪のカケラひとつ、髪の毛一本、アカ一粒から個人を特定するのは造作もない。実際、『ガタカ』では、そのことが緊迫感あるサスペンスとして機能している。

 また、デザイナーベビーの「製造」がもし現実化すれば、それを実行できるだけの財力がある家とそうでない家の間における格差は、等比級数的に広がってゆく。生まれる人間の「先物的価値」は、その家の資産価値そのもの。もはや倫理も人権もへったくれもない。

 『ガタカ』はじめとした「人間の遺伝子操作」を扱った物語では、このように「デザイナーベビーが優遇され、非デザイナーベビーが不当に差別される格差社会」を背景として描くことが多い。「遺伝子操作」というモチーフには、パンドラの箱的な不気味さと、フィクションとしてドラマを転がしたくなる魅力が同居しているからだ。

 そして、これらの物語には定番の展開がある。「非デザイナーベビーが努力の末にデザイナーベビーを打倒し、デザイナーベビーに悲劇が訪れる」だ。『ガタカ』のヴィンセントは宣告された運命に抗って栄光を手にしたし、ゴルゴ13も知恵を尽くしてライリーに勝利した。

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