IT部門にこそイノベーション特区を
さて、このようなビジネス創出への取り組みに対してIT部門はどのような役割を果たすべきなのでしょうか。ITの専門家集団であるIT部門は、自らアイデアを起案し、ITを活用したビジネス創出を牽引することも考えられるでしょう。一方で、ビジネスの最前線において顧客の課題やニーズをよく知る事業部門のスタッフが、ITやデジタル技術に対する感度を高めるための支援を提供することも重要な役割となるでしょう。
IoTや人工知能などの最新技術動向、同業他社や異業種の先進的なIT活用事例、デジタル技術によるビジネス革新や新業態創出に関する啓発的な内容などを、社内セミナーやイントラネットを通じて情報発信することで、イノベーションへの気づきを与えるというのも有効な打ち手となるはずです。
もはや幅広い業種において従来のエンタープライズIT(コーポレート系やコラボレーション系システム)と、事業に直結したビジネスIT(事業特化系や業種特化系システム)の境界線はあいまいになりつつあります。したがって、IT部門はビジネスITに対して担当外とばかりも言っていられません。
また、本業分野でITを活用して新規事業分野を開拓しようとする一般の事業会社と、ITを専門とするITベンダーの境界線もあいまいとなってくるでしょう。事業部門とITベンダーが直接的に協力し合ってイノベーション創出に取り組むケースも増えてくることが予想されます。共同事業のための業務提携やコンソーシアムの結成という形態も考えられます。こうした際に、IT部門が事業部門とITベンダーの橋渡し役を果たすということも考えられます。
そして、何よりもIT部門内にイノベーション特区を設置するということも視野に入れておくべきです。IT部門が一定の予算と権限を持ち、事業部門にデジタル技術の活用を能動的に提案したり、顧客の課題やニーズを汲み取ってITベンダーを巻き込んだ仮説検証を行ったりして、イノベーションを主導することも有効な選択肢となるはずです。
イノベーションへの取組みに対して、IT部門がどのような役割を果たすのか、また、ここで述べた特区戦略においてどのような立場を取るのかが問われ、IT部門の組織ミッションや業務分掌の再定義が必要となるのではないでしょうか。少なくとも、こうしたデジタルイノベーションへの取組みにおいてIT部門が蚊帳の外に置かれるようなことがあってはなりません。
- 内山 悟志
- アイ・ティ・アール 代表取締役/プリンシパル・アナリスト
- 大手外資系企業の情報システム部門などを経て、1989年からデータクエスト・ジャパンでIT分野のシニア・アナリストとして国内外の主要ベンダーの戦略策定に参画。1994年に情報技術研究所(現アイ・ティ・アール)を設立し、代表取締役に就任。現在は、大手ユーザー企業のIT戦略立案のアドバイスおよびコンサルティングを提供する。最近の分析レポートに「2015年に注目すべき10のIT戦略テーマ― テクノロジの大転換の先を見据えて」「会議改革はなぜ進まないのか― 効率化の追求を超えて会議そのもの意義を再考する」などがある。