また、最初はその場で作って撮影後の処理もすぐに行わなければならなかった記録媒体が、あらかじめ作って保存・持ち歩きすることが可能になった。さらに、撮影後の処理も後でまとめて行うことができるようになることで、撮影時には何をどう撮るかだけに集中できるようになった。
撮影装置(カメラ)本体もコンパクトかつ安価になり、多くの人が所有できるようになって、さまざまな人々が多種多様なものごとを撮るようになった。
そうして、一大儀式であった写真撮影は、日常に近いものになっていった。
デジタル化直前まで
デジタル写真が登場する前後については、より詳しくみてみたい。デジタル化される以前に最も普及していたのは、35ミリフィルムを使うカメラであろう。
1本の(ロール)フィルムで多くて36枚の写真を撮ることができた(「ハーフサイズ」のカメラなどの話は置いておく)。
撮影後は、フィルムを写真店へ持っていき現像と紙への焼付け(この2つが分離している、というのは今となっては不思議かつ原理などを知らない人にはなかなか理解しがたいことであろう)を依頼し、1日から数日後に結果を受け取りに行く。そうして、ようやく撮影した写真を見ることができる。
1本分の枚数を撮り切ってからでないと、未撮影分のフィルムを無駄にすることになる。急がない場合、そのロールフィルムの最初のほうに撮影したものは現像する1カ月以上前のもの、というようなこともままあった。
1枚あたりのフィルム・現像・焼付のコストもさほど安くはなかったので、記念や記録的意味合いの強いもの以外を気軽に撮る、という習慣もあまりなかった。
「記念写真」などに対して、日常の何気ない風景を撮った写真を指す「スナップ写真」という言葉が出てきたというのも象徴的である。日常を撮ることはまだ特別だったのだ。
撮ったその場で、(とはいえ1分程度かかるが)印画紙に焼き付けられた写真を見ることのできるインスタントカメラもあったが、焼き増しに対応していない、カメラ本体が比較的大きくなってしまう、などの弱点があった。
パーティー会場などで、その場で撮って印画紙の余白にメッセージを書き加える(この使われ方はUX的におもしろい)などの用途で広く使われ、通常のフィルムカメラとのすみ分けがなされていた。