たくさん撮るほど「一枚」の相対的なコストはより下がり、加えて、撮ることに対する心理的コストが下がることで、このような傾向は顕著になる。不要になったらすぐに消せばよく、それも簡単である。
もはや「書く」「それを見る」のと同じくらいの感覚で、日常的に「撮る」「それを見る」ことができるようになっていると言えるだろう。
この先の進化・変化
これまでの歴史でも技術が写真の撮り方・使われ方を変えてきたが、デジタル技術はこの先もまだ写真自体やそれを取り巻く状況を変えてゆくはずである。例えば、iPhoneのカメラには、写真を撮ると前後数秒の映像や音声も記録されるLivePhotosという機能がある。
リコーのTHETAを始めとして、特定の方向だけでなく360度全体が撮れるカメラもいろいろ登場している。
高感度化も、今まで撮ることが難しかったものを容易に撮ることができるようにしてくれている。
リコーのTHETA(ウェブサイトから引用)
これらはまだ「特殊な写真」としか思われていないかもしれないが、やがて意外な使われ方や文化を創造するかもしれない。
一方で、古いタイプのカメラや写真が、主流からは退いたとしても完全に消えてしまったわけでもない。どちらの方向も、新たなUXをいろいろと考察してみるためのよいフィールドと言えよう。
筆者も参加したのだが、こうした、写真やその拡張を取り巻くさまざまな技術や文化について関心を持つ人々による「フォトメディア研究会」も開催されている。
いろいろな撮り方だけでなく、鉱物に印刷するなど写真という媒体を通じて何をどう表現するかの話題もあり、予想を超えた写真の世界の広がりを感じさせるものであった。
最後に
写真、特にデジタル写真に関して、本稿で取り上げなかった側面もまだまだある。たとえば、「写真をどう閲覧するか」などはそれだけで大きな考察対象である。動画との差異や関連も興味深い。
読者の方々はそれぞれ、まずは自分の場合を中心に、そしてそこからさまざまな方向に拡張しつつ、考察してみていただきたい。
また、新たな使い方などを意識して写真を撮ることで、UXに関する知見を増やしていただきたい。
- 綾塚 祐二
- 東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻修了。ソニーコンピュータサイエンス研究所、トヨタIT開発センター、ISID オープンイノベーションラボを経て、現在、株式会社クレスコ、技術研究所副所長。HCI が専門で、GUI、実世界指向インターフェース、拡張現実感、写真を用いたコミュニケーションなどの研究を行ってきている。