PaaSによるPLM運用基盤に「Aras Innovator」を活用
川崎重工業は、航空・宇宙、エネルギー、産業機器、電力、車両および船舶業界向け機器製造など、多様な製品を扱っている企業だ。ロボット事業などにも参入しており、高度にIT化された生産施設を構築して顧客に提供する「スマートファクトリー」の事業化にも挑戦している。
同社は、2014年、PLMに関する大きな改革を実施した。PLM製品「Aras Innovator」を中心としたPaaSを構築し、各カンパニーが利用できるようにしたのだ。
同社は、2001年にカンパニー制を採用しており、製品分野別に7つのカンパニーが事業を行っている。PLMについては各カンパニーが独自に選択して運用してきたが、2010年を過ぎたころから、これらの運用コストが課題として浮上してきた。
PLM運用基盤とビジネスプロセスとの関係
この課題を解決するには、各カンパニーが利用するPLMを統一すればいい。しかし、話はそう簡単なものではなかった。
「各カンパニーは、製品の種類も大きく異なり、長年培った経験から独自にさまざまなソリューションを組み合わせてPLMを運用しているところもあります。そこで、PaaSによるPLM運用基盤を構築し、強制ではなく自由に利用してみてもらうという形をとりました」
2013年から計画を進め、2014年にPLM運用基盤は完成した。現在、ロボットビジネスセンター、航空宇宙カンパニーなどの4カンパニーと関係会社1社の5つの組織で利用されている。
「利用の仕方は、各社さまざまです。CADデータの管理から入って、段階的に利用範囲を広げていく組織もあります。また、新設された組織では、一気にすべての機能を利用することか多いですね。今後、新設されるカンパニーが増えてくると思いますので、PaaSによるPLM運用基盤の利用ユーザーも増加するはずです」と三島氏は語る。
PLM運用基盤に求められたカスタマイズ対応力
現在、同基盤を利用しているユーザー数は約2500ユーザーだという。同社の規模から考えると、当然、これくらいのユーザー数にはなるはずだが、大規模な基盤を支えるPLM製品の選択には、どんなポイントがあったのだろうか。
「自分たちで簡単にカスタマイズできることが、外せない重要な条件でした。各カンパニーは、量産型の製品だけでなく、プラントなどに納入する一品ものの製品もあるので、一口にPLMといっても多種多様なカスタマイズ案件が発生します。新しい基盤を利用する際、内部で処理できないとなると、外部に委託することになり、コストが発生してしまう。それに一から説明することになり、対応スピードも鈍くなる。これでは、基盤を構築してもコストメリットは減ってしまうし、ビジネススピードにも影響する」と三島氏は話す。
同社では、Aras Innovatorを選択する前に、国内外の代表的なPLM製品を検討した。そして、各ベンダーにあるカスタマイズの条件を提示してデモを目の前で実施してもらったという。
結果、1つのGUIで指定されたカスタマイズを行えたのはAras Innovatorだけだったとのこと。
「他社の作業では、いくつかのオプションや別のモジュールを使わないとカスタマイズできないというものがほとんどでした。それでは、ユーザーの負担も大きく、基盤そのものが利用されにくくなってしまう。当社では過去にAras製品を利用したケースはありませんでしたが、この結果から、導入を決定しました」
また、Aras Innovatorは、サブスクリプションで提供される価格の中にバージョンアップ作業も含まれるということも、大きなメリットだと三島氏は話す。
「実際、利用している組織の中で、2度バージョンアップを実施した企業がありますが、カスタマイズした機能を保持したまま、スムーズに実行できました。バージョンアップそのものはArasが担当し、結果を当社で確認するだけで済みます。若干の不具合が発見されても、社内で対応できるレベルのものでした」
三島氏は、同基盤を利用する組織に対しては、Arasのトレーニングを受けてもらっているというが、特に利用後に大きな問題は発生していないという。
「トレーニング内容は、IT担当者であれば、スムーズに理解できるもので、理解しづらいといった声は聞きません。また、操作性などに不満がある場合には、サードパーティの製品を使ってすぐに改善できたというケースもありました。このあたりは、OSS製品の強みといったところかもしれません」